旅路77
「よくご存知で。あの部屋を見ただけで分かったのですか?」
疑問に思ったので、ヒヅキはその疑問を女性に問い掛けてみる。
「いえ。あの部屋だけでは、何か仕掛けがあったぐらいしか分かりませんね」
「ではどうやって?」
「簡単ですよ。石塔の地下にここの家財道具が在るのを見つけたので、そこに回収された魔法道具が在っただけです。あとは石塔と部屋の仕掛けを解析すれば、容易に推測可能という訳です」
「そうだったのですか。石塔の方には行ったのですか?」
「いえ。まだ中には入っていません」
「石塔の地下が倉庫になっていたのですね」
女性の回答に、ヒヅキはなるほどと頷く。
家の中の物を持っていくにしても、大きな家である、そこに在った家財道具は結構な量になった事だろう。そんな物を全て持って移動するというのはかなり大変だろうとはヒヅキも思っていたところだったので、隣の地下に移しただけだというのであれば、それも可能だろうと思ったのだった。
しかし、ヒヅキの言葉を聞いた女性は首を横に振る。
「いえ、地下は倉庫ではなく避難場所のようですよ。この家の者や町人の一部が避難したのでしょう」
「では、今も地下に?」
この家はもう長いこと放置されているようであった。だが、町は荒れている様子は無いので、ヒヅキはそこまで長いこと地下に避難している必要も無いと思った。
そもそも、何から避難していたのだろうか。不意にヒヅキはそんな疑問を抱いた。スキアからだと思っていたが、それであれば地下に逃げるのは愚かしい気もする。スキアであれば、地下に人が居る事ぐらい分かるはずだから。
近くでスキアの被害があったとして、スキアから避難するならば、小人数に分かれて町から離れた自然の中で暮らすのが1番だろう。そうすれば、見つかる確率がグッと減る。
それとも、何かしらの自然災害でもあったのだろうか。そう思うも、そうであれば家財道具の全てを地下に運ぶほどではないだろうし、やはり町に被害らしい被害がないというのが気になった。それに町人の一部ということは、それ以外は何処に行ったというのか。
ヒヅキがそんな事を考えていると、女性はヒヅキの言葉に何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。
「どうしました?」
何か言い辛い事でもあるのだろうかとヒヅキが首を傾げると。
「今も地下に居ますが、どうやら魔法道具が誤作動を起こしたようで、地下に閉じ込められているようです」
「誤作動ですか?」
「ええ。地下への扉は魔法道具によって開閉するように設計されていたようで、その分頑丈な扉が取り付けられていたようですが、扉を開閉させるその魔法道具が誤作動を起こしてしまったらしく、扉が開かなくなってしまったようですね」
「避難した人達は大丈夫なのですか?」
「生き残りは居ないみたいですね。どうやらその魔法道具は空気の循環も担っていたようですので、そちらも止まって久しいようです」
「………………」
つまり、地下に新鮮な空気が無くなったという事なのだろう。それはどれだけの地獄だったのだろうか。
「魔法道具を修繕すれば元に戻りますから、後で直しましょうか?」
「どうでしょう、何か気になるものはありましたか?」
「そうですね……魔法道具は何点かありましたがそこまで性能は良くないですし、金目の物などは要らないですし……ああしかし、魔石と蓄魔石が少しあったようですので、そちらは回収してもいいかもしれませんね。量はそれ程ではないので、捨て置いてもいいですが」
「そういえば、港にはなかったのですか?」
そう問い掛けるも、そこで荒らされた港を思い出したヒヅキは、仮に残っていたとしても持っていかれた後だろうなと思った。それよりも、船の中の魔石と蓄魔石を回収したのであれば、それで足りたのかどうかの方を尋ねた方がいいかもしれない。




