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旅路76

 部屋に入ると、こちらもがらんとした広い部屋であった。

 天井まで届く建付けの本棚が壁一面に並んでいるので、もしかしたら図書室だったのかもしれない。今は本が1冊も入っていないが。

 本棚の数を考えれば、個人が所有するにしては結構な数の所蔵があった事だろう。それが全て持ち出されている事を残念に思うが、それは考えたところで意味のない事だ。

 そもそも、ここに本が収められていた時であれば、ヒヅキはここへ入るなど無理だったであろう。

 ヒヅキは室内を調べながら、フォルトゥナに何か視えるか訊いてみる。しかし、答えは気になるものは無いというものだった。

 室内を調べても何も無かったので、もしかしたらここは、扉の候補地だったのかもしれない。そう思えば、納得も出来た。

 とりあえず調べられるだけ調べたので、ヒヅキは2階の残りの部屋を調べて3階へと移動する。

 3階は狭く、階段を上って直ぐに左右に1部屋ずつ在るだけで廊下はない。ヒヅキはまずは女性が居る部屋とは反対側の部屋に入ってみる。

 そこは広い部屋であったが、何も無い部屋でもあった。窓があるので、外の光が入ってきているので明るい。だが、本当に何も無い。物置だったのだろう。

 一応調べてみたが、隠し扉のようなものは無かった。収納出来るような場所も無いので、直ぐに部屋を出て反対側の部屋に入る。

 反対側の部屋も似たような部屋だった。どうやら3階は物置小屋だったらしい。

 そんな何も無い部屋の窓際に女性は立ち、外を見下ろしていた。非常に整った顔立ちなので、陽光を反射する姿は何とも神秘的な印象を抱かせる。

「どうかしましたか?」

 扉を開けて部屋を見回したヒヅキに、女性は外に視線を向けたままで声を掛ける。

「いえ、特に用事があった訳ではなく、家中を調べていただけなので」

「そうでしたか」

「ええ。それで、ここで何を?」

「外の景色を眺めていました。この町は屋根が色とりどりのようで、ここからの眺めは悪くありませんよ」

 そう言うと、女性はちらとヒヅキに視線を向けた。その視線に、見てみるか? と問われた気がした。

 ヒヅキが窓際まで移動すると、女性が横に避けて場所を譲る。それに軽く頭を下げて窓の外に目を向けると、女性の言う通りに色とりどりの屋根が見えた。

 それはどれも人工的なのっぺりとした色合いではあったが、それでも町中に花が咲いたような気分に少ししてくれる。風に乗って何処からか花の匂いがしているのも、そんな気分を助長してくれる。

「確かに悪くない眺めですね」

 ずっと観ていたいほどの景色ではないが、それでも息抜きには丁度いい。そんな景色。

 ヒヅキはフォルトゥナに場所を譲った後、女性と言葉を交わす。話の内容は、魔石の話や扉の話、別次元の話など、簡単なものながらも実のある話が出来ただろう。

 ついでに石塔の入り口の鍵について問うと、この家には鍵が無いから、開けるなら鍵か扉を壊すしかないと教えてくれた。

「ああ、そういえば」

 その答えに礼を言って1階に下りようかと思ったヒヅキは、扉の前で振り返って思い出したように問い掛けた。

「先程クロスと会ったのですが――」

 ふと思い出したので、ヒヅキはクロスが探していたものについて説明して問い掛けてみると、女性は視線を床の方に向けた後、軽く肩を竦めて口を開く。

「それでしたらもう意味はありませんよ。どうやら荷物を纏めた時に肝心な部分を持っていってしまったようですので」

「肝心な部分ですか?」

 首を傾げたヒヅキに、女性はあの部屋が何だったのかを説明していく。

 その説明によると、あの部屋は石塔の魔法道具の起動装置か何かが置いてある部屋ではなくて、逆で石塔から起動出来る魔法道具が置いてある場所だったらしい。その魔法道具は。

「爆破装置、ですか?」

「ええ。あの石塔の地下に避難場所があるようでして、何かが侵入した時の最終手段としてそういった物が置いてあったみたいですね。しかし、その肝心の爆破部分を持っていってしまったようでして……。ああ、先程の話の魔力回路ですが、あれはただ魔力回路を埋め込んでいるだけですよ。本命を隠す為の囮ですね。地下に逃げる時間があるので、即起動という魔法道具ではなかったようなので」

「なるほど」

 と、ヒヅキは納得して頷くも、同時に何で女性はそんな事を知っているのだろうかと疑問に思った。

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