旅路75
可能性というものは考えればいくらでも考えられるが、普通に考えればあり得ない話なのだ。魔力回路を外に出すという事は、それだけ無駄や危険が多い。
(石塔を含めたこの家がそもそも魔法道具だったというのであれば話は別ですが……)
しかし、それもありえない話だった。数はかなり少ないが、巨大な魔法道具というのは存在している。
その巨大な魔法道具の中に、家そのものが魔法道具というモノも存在しているのをフォルトゥナは知っているので、家そのものが魔法道具という可能性はない訳ではない。
だが問題は、仮にここが魔法道具だとすると、あまりにも何も無さ過ぎるのだ。魔力回路だけで言えば、今し方視た壁の中と壁から本棚へと伸びている魔力回路のみ。これは明らかに少なすぎる。調べてみても、他に魔力回路が在る様子は無い。
(そもそもこの魔力回路もおかしい)
薄っすらと視える魔力回路。それは魔力の残滓が視えるもので、対策していない限りは、使用した魔法道具であればどれでも同じ現象が起きる。そして、これは時間経過と共に魔力が周囲に散る事で視えなくなっていく。そういうものだ。
(では、何故ここだけが視えるのか。それに、ここはそれなりに長い間放置されていたはず)
魔力回路に魔力の残滓が残っている期間は、再度使用しなければおおよそ1ヵ月と言ったところ。魔力回路に魔力を逃がさない、もしくは魔力が残りにくい仕掛けがあるとか、そもそも魔力回路自体が魔力を含んでいるとか例外はあるが、目安としてはそれぐらいだ。
では、ここの家はどれぐらい放置されていたのかだが、ヒヅキと1階と2階の一部を歩き回った感想としては、少なくとも1年以上は放置されているだろう。至るところに埃が積っていて、歩くのにも気を使ったぐらいだ。
それでは、何故魔力の残滓が残っているのかと考えると、これは残滓ではなく、最初から組み込まれているからという事になるのだろう。
では一体何の為に? そう考えると、何となくこれは偽装なのだろうなと思った。つまりここには何も無いという事。
そもそも、こんな場所と石塔を繋げる意味がない。離れ過ぎているので、もしもこれが解錠や点灯の魔法道具だとしたら、全く以って意味不明である。遠隔で意味があるとしたら爆破などの攻撃だと思うが、それにしては今度は近すぎる。
では他の目的かと考えるが、可能性は考えればいくらでも考えられるものである。それよりも、ここの魔力回路が偽物というほうが1番しっくりくる。そうなると、この部屋には別に何か仕掛けが在るのかもしれない。それかここで足止めか何かで時間を稼ぎたいか。
天井や床など周囲にも眼を向けてみるも、何かあるという事はない。クロスもこの程度は気づいていそうだが、それもまた推測でしかない。
フォルトゥナは少し離れた場所に移動して二人の様子を窺った後、ヒヅキが満足するまで待つかと決めた。
もしかしたら、ここに在った何かは家財道具と一緒に回収されたのかもしれない。ふとそんな事をフォルトゥナは思った。
しばらくして、ヒヅキは満足したのか本棚から離れる。結局何も解らなかったが、楽しめたようだ。
それからクロスと別れて2階の探索を再開する。次は反対方向にいる女性の許へと探索しながら移動していく。
道中の部屋は相変わらずがらんとしていて、奇麗なだけで廃墟と変わらない。いや、廃墟の方がまだ物が在るかもしれない。などと思いながら、ヒヅキは足早に2階の探索を進めていくのだった。
そうしてやっと女性が居た部屋に到着する。しかし、到着した時には女性は既に上の階に移動していた。
この家は3階建てではあるが、3階部分は外から見た限りは小さかった。まるで、家が帽子でも被っているかのように思えたほど。
なので、そちらは直ぐに追い付けよう。それよりも、女性が何かを探していた部屋は何だったのか、ヒヅキはまずそちらから調べてみる事にした。




