旅路74
本棚は見た目は木製であったが、触れてみるとひんやりとしていて、それが金属製であるのが分かる。
とはいえ、見た限り特に怪しい物ではない。何も知らなければ気にもしなかっただろう。
触れたついでに魔力を流してみるが、本棚自体は魔法道具でも何でもないので、魔力の通りが悪い。そのせいで、全体を調べるのはヒヅキの魔力量的に無理ではないがきつそうだった。
各方向から細かに調べるという方法もあるが、この辺りは既にクロスが済ませている事だろう。魔法道具を探すのであれば、真っ先にする事のひとつでもある訳だし。
もっとも、魔法道具を起動させないで探すとなると結構難しいのだが、そこはクロスも英雄と呼ばれていただけの実力はあるだろう。
それでもヒヅキはその事について一応訊いてみたが、やはり調べた後であったらしい。という事は、この本棚は魔法道具とは無関係なのかもしれない。
(いや、クロスはこれを鍵と言っていたし)
先に本棚を調べていたはずのクロスがこの本棚を鍵と言っていた事を思い出し、それならばこの本棚に何かあるのだろうと思い直す。しかし、鍵と言ってもこれが起動させるためのものとは限らない。もしかしたら、魔法道具の前を塞いでるだけで、この本棚を手順に沿って動かさなければ起動装置が出てこないなんて事もあるかもしれない。
(考えすぎか?)
そんな自分の考えに苦笑が浮かぶも、可能性としてはそれも十分に考えられるので困ってしまう。
ヒヅキとクロスがそうして本棚を調べている間、フォルトゥナは少し離れたところから本棚や壁を眺めていた。
魔力回路はとても朧気で、目視するのは難しい。壁の方に薄っすらと視える魔力回路も、少し意識を逸らすだけで見失ってしまいそうなほど。
その魔力回路を慎重に辿っていく。本棚は建付けではないようで、本棚と壁の隙間が見える位置まで移動すると、ほぼピッタリと壁にくっ付いている本棚の僅かな隙間に魔力回路のようなモノが視えた。
本棚や壁を透過するように薄っすらと視えるので、奥行きについては曖昧だが、それでも本棚へと魔力回路が伸びているのは確かなのだろう。そう思える。
「………………」
しかし、フォルトゥナは怪訝そうに目を細めた後、首を傾げた。
魔力回路の痕跡はそこで途切れているので、本棚へと伸びた後は分からない。だからクロスは調べているのだろうが。
(これは……本当に本棚へと魔力回路が伸びているのでしょうか?)
いやそれ以前に、そもそも本当に石塔からここまで魔力回路が伸びているのだろうか。フォルトゥナは自身が視た魔力回路の影に疑問を覚えた。
石塔から今フォルトゥナが居る部屋まで結構な距離がある。手で持てるぐらいの大きさが多い魔法道具に組み込むのが普通の魔力回路にあって、その距離は明らかに遠すぎるだろう。
とはいえ、簡単な魔法道具なら作れる程度のフォルトゥナの知識としても、それは不可能ではないと判断出来る。魔力回路を伸ばすのは手間が掛かるが、それでも基本ではある。長くなるとその分魔力を通すのが不安定になるし、通る魔力も距離に応じて弱くなってしまうのであまり好まれないが。
それでも複雑な魔法道具になると、かなり魔力回路が長くなってしまう。ヒヅキの持つ長剣もその類いのものだ。それを補っているのが、魔力回路を密集させて魔力を濃くさせる技法であり、魔力を効率よく通す技術である。
その辺りは腕の見せ所なのだが、今回はそれとも少し違う。複雑な魔法道具は魔法道具の中で完結しているが、目の前のは外に出ている。
(これだと出力の低下は免れないでしょうね)
フォルトゥナの見立てでは、視える魔力回路は無駄が多い。なので、魔力を流したところで本体に到達する魔力は少なくなっている事だろう。そんな少ない魔力で起動できるとなると。
(明かりの魔法道具か、扉の解錠の魔法道具でしょうか?)
石塔に繋がっている魔法道具と考えれば、その辺りだろうとフォルトゥナは推測する。しかしその推測は、この魔力回路が本物だという前提での話ではあるが。




