旅路72
先に通った女性達同様に扉の中をすり抜けると、ヒヅキとフォルトゥナは大きな家の中に入る。
『この扉はいつまでこのままなのだろうか?』
問題なく通り抜けられた扉を振り返り、ヒヅキはフォルトゥナに問い掛ける。
『術者が戻すか効果が切れるまででしょうが、このまま放置したならば術者があれですからね、手を抜いているだろうとはいえ、10年程はこのままではないかと存じます』
『10年か……結構な年月だけれど、人が戻ってくるか分からないからね。そういえば、町の門の方は大丈夫なの?』
おそらくこのまま放置して効果が切れるよりも、世界の崩壊の方が早いだろう。それはそれとしても、相変わらずの効果だった。フォルトゥナも確信があってそう言った訳ではないようだが、女性の事を知っていれば、それを笑うことなど出来なかった。
『あちらの方は移動する前に戻していたようなので問題ないかと』
『そうなんだ』
それに気づかなかったヒヅキだが、それはそれでいつものことだ。魔力に敏感と言っても、別次元に関わるとどうも反応が鈍い。もしかしたら魔力とは別のモノを用いているのか、それとも魔力が分からないぐらいに変質しているのか。
ふとそんな事を思い、もしかしたらそこを突き詰めれば自分でもそういった技法を扱えるようになるのだろうかとヒヅキは考えたが、残念ながら時間が無さ過ぎた。現在は今代の神との戦い前夜に近い状況なのだ、今からそれを学んだとして、一朝一夕で覚えられるなどとは冗談でも思えない。
(学んでみれば意外と簡単、なんて事はないだろうし)
別次元やそれに関わる事に触れたのは今回が初めてという訳ではないのだ。今までにも何度も別次元には触れてきたし、最初にそれを知ったのも結構前である。
ヒヅキもそれから何も調べようとしなかった訳ではない。色々と自分なりに調べて未だに何も分からないというのが現状なので、変な期待は抱かないというだけだ。ヒヅキは魔法の方面に明るい訳ではないが、それでも何も知らない訳ではないのだから。
それでもまぁ、その辺りは女性と合流した時にでも覚えていたら訊いてみるかなと適当に考え、家の中を進む。
家の中は外観通りに大きかった。玄関を入って直ぐに広々とした空間が出迎え、正面と左右に奥へと続く長い廊下。天井も高く、キラキラとした大きな物が上からつり下がっている。おそらく外見を重視した明かりの魔法道具なのだろう。
ヒヅキは正面の廊下を進んでいく。左右の廊下はおそらく最終的に石塔の方へと繋がっているのだろう。石塔の片方には正面に扉が在ったが、両方家とくっ付くように建っていたのだから。
その石塔にも興味はあるが、ヒヅキとしてもこのように立派な家に何が在るのか気になった。避難する際に中身は持ち出された後だろうが、とても大きな家なので、全てを持ち出せたとは思えない。もしかしたら掘り出し物でも見つかるかもしれない。
女性達も家の中に居るようなので、後で合流すればいいだろう。
廊下を進むと、左右に部屋が並ぶ。その奥には階段があった。ピカピカに磨かれた白っぽい石の立派な階段。
堂々と真っ直ぐ2階に続いている大きな階段だが、とりあえずそれは無視して1階の探索を行う。
部屋は使用人の私室のような部屋や物置っぽい部屋、食堂や食料保管庫など色々とあったものの、調べてみても興味をそそられるものは無かった。
家財道具はほとんどが持ち出された後なので、調べるのは非常に楽。石塔への扉も発見したが、そちらは鍵が掛かっていた。今は用が無いので別に構わないが、在るとは思えないが一応鍵も探してみる事にした。
そうして1階をサクサクと見て回った後、ヒヅキは2階を調べるべく階段を上っていく。女性達も未だに2階に居るようなので、2階には何か在るのかもしれない。
2階に上がると、左右に廊下が伸びている。相変わらず大きくて広い廊下だ。片側には沢山の扉が並び、反対側には窓が取り付けられている。
そんな廊下も奥の方で曲がっているので、2階は2階で結構広そうであった。




