図書館
翌日。
シンビに図書館の場所を教えてもらったヒヅキが図書館へと行こうとすると、丁寧な線で道順が描かれた地図をシンビに手渡される。
それを感謝の言葉を告げて受け取ると、ヒヅキはシロッカス邸を後にした。
シンビに渡された地図はとても分かりやすく、まだガーデンの地図が頭に描ききれていないヒヅキでも一切迷うことなく無事に図書館まで辿り着けたほどだった。
その到着した図書館は、流石王都の図書館というべきか、まるで城のようなその偉容は、ソヴァルシオンの大図書館以上の大きさで、それでいて年期を感じさせる外観は独特の威厳を見るものに感じさせる。
わざわざ両脇に警備兵が立つ図書館の玄関を通って中に入ると、見渡す限り本に埋め尽くされた広大な空間に出迎えられて、その圧巻の光景に、ヒヅキは思わず息を呑んだ。
「本日はどのような御用件でしょうか?」
そんなヒヅキに、目の前の青髪を短めに切り揃えた女性が、カウンター越しに柔らかな声を掛けてくる。
「えっと、資料を見たいのですが」
「どのような資料でしょうか?」
そう問われて、はて何の資料がいいのかとヒヅキは僅かに頭を捻る。
(スキアの資料と言えばいいのかな?)
そんな資料があれば手っ取り早いのに、という淡い期待を込めて女性に「スキア関係の資料を」 と告げると、女性が直ぐ様に軽く頭を下げて返してきたのは、「申し訳ございません。そのような資料はございません」 という予想通りの答えだった。
「それじゃあ、人以外の種族に関する資料が見たいのですが」
予想通りだった為に、直ぐに用意していた次善の要望を伝えると、その要望の資料はあるらしく、広い図書館の簡易的な見取り図をカウンター下から取り出すと、女性は丁寧に資料の場所がある区画までの道順を教えてくれる。
「ありがとうございます」
「それでは、どうぞごゆっくり」
それに頭を下げて礼を述べると、ヒヅキは今しがた丁寧に女性に教えられた道順でお目当ての区画へと向かう。
本当に広い図書館だった。
教えられた区画が離れていた事もあるが、移動するだけでいい運動になったほどだった。生理現象を考慮しなければ、ここに十分住めるほどだ。
到着した区画には、圧倒されるほどに大量の資料が収納された巨大な本棚が並んでいた。
これだけあれば知りたい事など全て分かるような気さえするのと同時に、あまり正体が分かってないとはいえ、全く何も分かっていない訳ではない以上、他種族の資料でこれだけ存在しているのに、スキアの資料は無いというのに僅かながら違和感を覚える。
(もしかして、一般閲覧不可の資料なのかな?)
その可能性もあるのかと、ヒヅキは今更ながらに思い至る。だとすると、目の前の膨大な資料の山も表面的なものばかりなのかも知れない。
(まぁ別に他国の内情が知りたい訳じゃないからいいんだけど)
ヒヅキが知りたいのは遠い過去。それもスキアについてだ。故に、様々な国や地域のお伽噺でも見つけられればヒヅキはそれで満足であった。
(さて、それじゃあ探しますか!)
ヒヅキは気合いを入れると、ともすれば目眩でも起こしそうなほどに膨大な資料の山を漁る為に、まずは手近な一冊に手を伸ばしたのだった。