旅路66
船を降りたヒヅキは、振り返って乗っていた船の姿を確認する。
(こんなに大きかったのか)
大きな船だとは思っていたが、こうして近くで外から見るのは初めてなので、それが想像以上の大きさだったと驚愕する。乗る時は転移魔法での乗船だったし、外から見た時は船は海上で港からは距離があった。
見上げるその船は、高さは3、4階建ての家ぐらいか。海中に沈んでいる部分も併せれば更に高くなるだろう。長さはちょっとした通りぐらいはあるかもしれない。
それが木造というのも驚きだが、やはりその大きさに圧倒される。
ヒヅキがそうして船を眺めている間にも、英雄達は次々と下船していく。そのまま港の広いところまで移動しているので、ヒヅキは我に返って英雄達に続く。
全員が並べる場所まで出ると、事前の話通りに整列する。人数を確認した後、久しぶりの陸地なので休憩という事になった。その間に女性は船の後処理をするらしい。
時間が出来たヒヅキは、解放感を味わうかのように身体を伸ばした後、軽く動いて身体を解す。身体を解した後は港を散策してみる事にした。
『荒れていますね』
少し歩いただけでも、建物があちらこちら破壊されているのが確認出来る。破壊されているのは主に扉と窓。中には一見して壊されていないような建物もあるが、よく見れば鍵付近が壊されているのが分かった。
『人がいなくなった後に物取りが来たのだろう。もしかしたらこの辺りは治安があまりよくないのかもしれないね』
フォルトゥナの言葉に、ヒヅキは周囲を確認しながらそう答える。海の向こう側では、建物が残っていてもこういうのはあまり見掛けなかった。
海の向こう側でも賊は居たが、こちら側は今でも動きが活発なのかもしれない。
『こちら側はあまりスキアが動いていないのでしょうか?』
『さぁ? ここが何処だかも分からないからね』
『それもそうですね。愚かな問いでした』
もしも今渡ってきた海が本当は巨大な湖だったとしても、ヒヅキでは分からないし判断が難しい。水が塩辛いから海だとは限らないかもしれないのだから。
仮にここが巨大な湖だとしたら、遠回りを避けて直進しただけの陸続きという事になる。それに本当に海を越えてきたのだとしても、やはり場所が分からない。
『まぁ、スキアは海も越えられるだろうから、あまり変わらないとは思うけれど』
スキアは神が生み出しているので、出現場所はあまり関係ないだろう。それに、スキアには地形は関係ないので、海中だろうと海上だろうと直ぐに渡ってしまうだろうから、海は防備にはならない。
『もしかしたらここがたまたま荒らされただけで、実体は向こう側とそう大差ないかもしれないし』
『そうですね』
『……もしかしたらスキアは、文明よりもまず人を優先して襲っているのかもしれないね』
この港町や海の向こう側の港町。それにその周辺の村々など、事前に避難していたと思しき場所の建物や防壁は壊されていなかった。つまりはスキアが来ていなかったという事だが、それはもしかしたら、避難して誰も居なかったから後回しにされたという事かもしれない。何となくヒヅキはそう思った。
無論、それらがたまたま残っていたに過ぎず、見分けがつかないというだけで、破壊された場所の中には、事前に避難していたけど破壊されたという場所も在ったのかもしれない。
ただ、文明と人命、どちらをスキアが優先しているのかと考えた場合は、やはり後者ではないかとヒヅキは思う訳で。そもそも優先順位など付いていないという可能性もあるが。
『築かれた文明よりも、まず摘み取るは文明を築く人命ですか。そうなのかもしれませんね』
思い返してみると、襲撃にあった場所は、まずそこの住民達を徹底的に殲滅してから建物などの破壊を本格的に行っていたような気がした。
そう思うと、やはりヒヅキの予想は正しいのだろう。もっとも、それが仮に正しくとも既に何の役にも立たない情報ではあるが。




