旅路62
しばらく静かな時間が過ぎた後、船が大きく揺れる。それと共に、大きな水の音が遠くに聞こえる。遮音性の高い結界を張っているというのに僅かにだか音が聞こえるという事は、外ではどれだけの轟音が響いているというのか。
そして、それだけの轟音を立てるほどの巨体というのも想像がつかない。少なくとも、乗船している船よりも遥かに大きいのだろう。
フォルトゥナの気配察知でも、非常に大きな存在が船の近くに現れたのを察知している。
しかし、それでもフォルトゥナに危機感は全くない。既に甲板上の英雄達が動き出しており、巨大な相手は何も出来ないでいる。というか、大きい分ただの的だ。
船の方も防護を強力に効かせているようで、このまま相手が殴ってこようが魔法を行使してこようがビクともしないだろう。まぁ、相手にそんな余裕はないだろうが。
結局、戦闘と言っていいのか分からないが、それは一分と掛からずに終わった。ほとんど姿を見せて直ぐに絶命したようなものだ。
その早さに、相手はいったい何がしたかったのかと訊きたくなるほど。まぁ、単純に襲ってきただけなのだろうが。
おかげでこの船の護りの強固さが改めて解ったので、フォルトゥナとしては相手の犠牲は無駄ではなかったとは思うがそれだけだ。
幸い、ヒヅキは揺れでは起きなかったようでまだ眠っている。それを見て、フォルトゥナは安堵の息を吐き出す。音は遠かったので問題ないとは思っていたが、揺れは思った以上に大きかったので、起こしてしまわないか心配であったのだ。
障害を取り除いた英雄達が戻っていくのを壁越しに感じながら、フォルトゥナはまた静かな時間を過ごす。
先程感知魔法を広域に展開した事で周囲が魔物だらけなのは確認済みだが、魔物避けの魔法道具でも積んでいるのか、あの巨大な何か以外は近寄ってこようとはしない。
航海は長期の予定であるが、船速が速いので予定よりは早く終わるだろう。だが、その前にまずは海上に在るという今代の神への道候補を調べるところから。
そこまではフォルトゥナも聞かされているが、その場所については知らない。というより、現在地は何処だというのか。
(まぁ、何処だろうと別にいいのですが)
ヒヅキが隣に居る。ただそれだけで満足なフォルトゥナは、それよりもヒヅキがいつ起きるのかに関心が向いていた。
(このまま自然に起きてくださればよいのですが)
目的地に着いてしまうと、フォルトゥナはヒヅキを起こさなければならない。海上の道候補の時は起こさなくてもいいような気もするが、そうもいかないだろう。
などと考えながら過ごしていると、船速が落ちてきたような気がした。そろそろ目的の場所に着くのかもしれない。最初の停泊なので、おそらく道候補の場所にもうすぐ到着してしまうのだろう。
操船しているのが睡眠も疲労も感じない存在で、船を改造した結果、そちらも休まず航行が可能になっているようなので、速度を落としているという事は、予定を思い浮かべれば間違いない。
そう判断したところで、フォルトゥナはそろそろヒヅキを起こした方がいいだろうと判断する。申し訳なく思うがしょうがない。そう思ったフォルトゥナがヒヅキを起こそうと手を伸ばしかけたところ。
「ん、んん」
僅かな身じろぎの後に、ゆっくりヒヅキが目蓋を持ち上げた。
どうやら起こさずとも自然と目を覚ましたらしい。丁度のことだったので、もしかしたら起こそうとする気配に気づいたのかもしれない。何にせよ、ヒヅキが自然と起きた事にフォルトゥナは内心で安堵した。
「……おはよう。フォルトゥナ」
周囲の様子を確認したところで、ヒヅキが起床の挨拶をしてくる。
それに挨拶を返したフォルトゥナは、現在の状況について話していく。寝ている間の事については、特に報告するような事もなかったので、何も無かったと報告した。




