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旅路59

 杭のように太い土の槍が浅い角度からウィンディーネの胴体に深々と突き刺さり貫通する。

「ふふふ。やはりこうなりましたか」

 突き刺さった土の槍に視線を落としながら、ウィンディーネは余裕のある笑みを浮かべる。それを無感情な瞳で眺めながら、フォルトゥナは次の魔法を現出させた。

「せっかちですね。しかし、こんな土の槍程度で私がどうにかる訳も……おや?」

 フォルトゥナがウィンディーネに突き刺さっている土の槍から植物を生やすと、それに目を向けたウィンディーネは呆れたようにそう言うも、その言葉が途中でぴたりと止む。

「それがただの土な訳ないでしょう」

 感情の全く籠っていない平坦な声音でそう告げたところで、フォルトゥナの魔法で土の槍に生えた植物が一気に生長してウィンディーネに蔦を絡ませていく。

 目に見える速度でぐんぐんと生長していくその植物は、絡ませた蔦をウィンディーネの全身へと這わせた。

「ぐっ。これは……力が?」

「植物は土と水と光があれば生きていけるらしいですよ。しかし、その植物は普通の植物ではないので、必要なのは土と水と魔力なのです」

「つまり、私はこの植物の養分だと?」

「他に何かありますか? その身体、魔力水のようなものでしょう?」

 すっかり全身を蔦に絡まれたウィンディーネは、現在顔だけを出しているような形になる。

「そうそう、ご存知ないようなのでお教えしますが、その植物は変わった特性を持っていましてね」

「変わった特性?」

 二人が話している間にも植物は生長していき、蔦を伸ばしている大本である、土の槍の部分に生えている植物の天辺に小さな蕾が出来る。

「ええ。この植物なのですが、実は寄生先の養分を根こそぎ奪うと奇麗な花が咲くのですよ」

 小さな蕾は、膨らむように徐々に大きくなっていく。最初は小指の先ほどの蕾だったのが、今ではこぶし大にまで膨れ上がっていた。

「花の大きさや美しさは養分次第なのですが、貴方から根こそぎ力を奪うとなると、さぞ立派で美しい花が咲くのでしょうね?」

 楽しみだと言わんばかりのフォルトゥナの言葉に、ウィンディーネは力が抜けていくのを感じながらも、呆れたような視線を向けてしまう。

「また、随分と回りくどい事をするのですね」

 ウィンディーネはフォルトゥナとの彼我の差を思い、そう口にする。これが地上であればまだどうにかなったのかもしれないが、地下はウィンディーネとは管轄が異なる。

 ウィンディーネの認識としては、地下を管理している者とウィンディーネは別に仲が悪いという訳ではない。しかし、だからといって仲がいい訳でもなかった。

 それは別にしても、相手は自身の領域を犯すものは誰であれ許さないという存在だ。地下に穴を掘って住まうぐらいは問題ないが、ウィンディーネが一部の力を振るうのは許可されていない。

 これが地上であれば、逆に植物から力を奪うという事も出来るし、何だったらフォルトゥナの生命力を根こそぎ奪ってしまうという芸当も可能だった。しかし、それが今は出来ない。フォルトゥナもそれを計算に入れたうえでの行動だと理解しているし、ウィンディーネは地下では仮に真正面から戦っても勝てなかっただろう。

 そんな状態だというのに、フォルトゥナは不意打ちから一気に終わらせるのではなく、こうしてウィンディーネを甚振るように力を奪っている。それがまた陰湿だと思いながらも、その下ではそれが自身を倒す正しい選択なのも理解していた。

 ウィンディーネは水の化身のような存在だ。普通に正面から倒しても、近くの水場から直ぐに蘇る事が可能だろう。しかし、こうして力を奪われたうえで倒されれば、直ぐには蘇れないし、復活するにしても事前に力の一部を置いている場所からに限定されてしまう。

 なので、フォルトゥナの選択は正しい。特性を知られているというのは厄介なものだと、ウィンディーネは段々と薄れていく意識の中でそう思ったのだった。

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