旅路58
フォルトゥナがヒヅキと別れたのは、ドワーフの国の地下である。そして、ウィンディーネは地下だと力を満足に発揮出来ない。
そういう訳で、フォルトゥナは常々邪魔だと思っていたウィンディーネをここで始末しておく事にした。
真正面から挑んでも勝てるだろうが、それでも無傷という訳にはいかないだろう。これからヒヅキを探す事になるので、出来るだけ無駄な消耗は避けたいところであった。
ウィンディーネは弱体化していてもそれなりに強い。それでも、たとえ地上のウィンディーネが相手でもフォルトゥナが敗ける事はないだろう。だが、やはり油断は出来ない。
現在ウィンディーネの位置は、ヒヅキが消えた穴の前に居るフォルトゥナの後ろ。後ろと言っても距離は離れているが、魔法がある限り油断出来る距離ではないだろう。
攻撃範囲というのであれば、互いにその圏内に入っている。ウィンディーネも警戒しているだろうが、今のところ攻撃してくる気配はない。
フォルトゥナはどうやって奇襲しようかと思案を巡らす。とりあえず、背を向けているという状況から変える必要があるだろう。そのままでも勝てるとは思うが、出来るだけ万全に近づけた方が確実に勝てるというもの。
(そうですね……まずは下手に嘘をつかずにヒヅキ様を探すという名目で立ち上がるとしまして)
それからどう話を進めていこうか。フォルトゥナは頭の中でこれからのことを思い描いていく。
今回最も大事なのは、不意打ちが成功すること。そのうえでしっかりと攻撃が命中し、なおかつ弱らせられれば文句はない。その一撃で全てが終われば最高だが、そう上手くはいかないだろう。変な期待は思考を鈍らせかねない。
元々真正面から挑んでも勝てる相手なので、弱らせる事が出来ればそれだけで勝ちは確定する。弱らせるのは逃がさないようにという意味合いも強い。
勝利条件を確認した後、敗北条件も確認する。大体勝利条件の逆の結果という訳だ。
それらを意識したうえで、これからの流れを構築していく。出来るだけ自然に思われるような流れで。
「………………」
もう長いこと無言のままの時が流れたので、今更黙っていても不自然ではない。かといって、そろそろヒヅキが何処かに行ったというのはウィンディーネも気づく頃合いだろう。
フォルトゥナから動く為にも、時間はそれほど掛ける訳にはいかない。大方流れを決めたところで、それ以外に流れが向いた場合の対処を考える。とりあえず不意を打てればそれでいいので、そこに流れを落ち着ける事を目処に考えればいいだろう。あまり細かく決めると、想定外のことに弱くなってしまいそうだ。
そうして準備が整ったところで、フォルトゥナは動き始める。
「どちらへ行かれるのですか?」
ヒヅキが向かった穴に背を向けて移動し始めたフォルトゥナに、ウィンディーネが声を掛ける。その声を聞きながらも、フォルトゥナは歩みを止めない。
「……どうやらヒヅキ様は、あの穴の先を抜けて別の場所に移動されたようなので、どうやっても穴を通れないようなので外から追いかけようかと」
ゆっくりとした口調でそう言いながら、フォルトゥナは堂々とした足取りでウィンディーネの横を通り過ぎる。
少し距離を取ったところで振り返り、フォルトゥナは視線で穴の方を指し示した。
「あの穴の方角に真っ直ぐではないでしょうが。ほら、見える場所でも道が曲がっていますから」
そう言うと、ウィンディーネはフォルトゥナの視線につられるように穴の方に視線を向ける。身体の方はフォルトゥナの方を向いているが、後方の穴に視線を向ける為に身体を捩っているので、ほぼ側面だろう。
背後から攻撃するのが最もいいのかもしれないが、目的は不意打ちである。それを考えれば今の状況は悪くない。ウィンディーネは最初からフォルトゥナを警戒はしているようなので、完全な不意打ちはほぼ不可能だろう。
そういう訳で、さっさと待機させていた魔法を展開する。待機状態だったので、即時魔法が現出してウィンディーネに襲い掛かる。
現在地は地下。なので、使う魔法は決まっている。そんな場所で最も速く展開出来て、尚且つ不意を衝けてそれなりに威力がある魔法といえば、土系統の魔法だろう。周囲は土だらけなので土を生み出す必要がない分、魔力消費量も少なくて済む。
ウィンディーネは魔法の気配に即座に反応を示したが、足下から飛び出してきた土の槍がウィンディーネに突き刺さる方が一瞬だけ早かった。




