旅路55
女性の使用している部屋も他と変わらない。奥に1室だけ広い部屋があるも、そんなモノに興味はないらしい。
「どうかされましたか?」
部屋が狭いので、三人入ると窮屈ではあるが、それでも会話する分には問題ない。
「ええ、実は――」
ヒヅキは女性が今代の神への道を探している間に自分達が見聞きした出来事を語って聞かせた。
最後にフォルトゥナに頼んで魔石と蓄魔石を出してもらう。場所が無かったので備え付けてある寝台の上に。
因みにこの寝台だが、奥の部屋や一部の乗組員の部屋以外は床に固定されている。奥の部屋などの例外は天井からの吊り下げ式の寝台であった。船は揺れるので、そちらの方がいいのだろう。全室ではない理由は、予算でもなかったのか何なのかは分からない。
何はともあれ、寝台の上に置かれたふたつの布。片方は魔石で、片方が蓄魔石だ。布の大きさからして、およそ蓄魔石の倍ほど魔石は在る。
「これはまた大量ですね」
蓄魔石だけでも抱えるほどの量があるのだ、魔石も入れればその3倍ほどの量となる。それを集めるだけでも、本来はどれだけの資金と労力と時間が必要か。実に気が遠くなる話である。
女性はその布を両方剥がすと、包まれていた魔石と蓄魔石を手に取って調べるように眺める。しばらくそうした後。
「ふむ。確かにこれは人工物ですね。出来も悪くない」
感心したようにそう口にすると、女性は他の魔石と蓄魔石も手に取って調べていく。
「やはりそうなんですか。魔石の方は魔力を固めたとして、蓄魔石の方はどうやっているのでしょうか? あれは鉱物でしたよね?」
「そうですね。ヒヅキの疑問ももっともです」
そう言うと、女性は手にしていた蓄魔石をヒヅキの方に見せるように掲げる。
「これは正確に言えば、蓄魔石と同じ性質を持たせた蓄魔石擬きといったところでしょうか」
「蓄魔石擬きですか?」
「ええ。これは蓄魔石と呼ばれている鉱物の性質を模倣して人為的に造られた石なのです」
そう切り出した後、女性はその人口蓄魔石について滔々と語りだす。
どうやら様々な鉱石やら草やら骨やらを混ぜ合わせたモノらしい。方法も成分の抽出ぐらいは解ったが、それまでの過程やら他の方法やらはあまりにも専門的過ぎてヒヅキにはよく解らなかった。というか、専門用語っぽい言葉が多くて何を言っているのかという段階から解らなかった。普段の女性だったらもっとも解りやすさを重視しそうなものだが、もしかしたら、昔こういった研究をしていたのかもしれない。
とにかく、蓄魔石を参考に造られたというのは解ったし、ヒヅキにはそれだけで十分だった。ただ、隣を見るとフォルトゥナが非常に感心したように女性の話に頷いていたので、それでも理解出来たという事なのだろう。相変わらずの優秀さだとヒヅキは思った。比べるのも馬鹿らしくなるほどに。
「それとこちらの人口魔石についてですが――」
余程興が乗ったのか、それとも得意分野であったのか、女性はいつになく饒舌であった。珍しいものだと思いながらも、ヒヅキは神妙な顔で相槌を打つ。
程なくして、女性の話も終わる。
「それで、その量で偽りの器への転移に必要な魔力は足りますか?」
話が終わった後、ヒヅキは肝心な部分について質問する。それについて聞くためにここに来たのだから。
「そうですね……片道分なら何とか、といった量でしょうか。まぁ、この辺りは距離次第ではありますが。それでも、往復分には足りませんね」
「そうですか」
「ですが、片道分はあるというのは大きいですよ。今後も見つかるかは分かりませんが、片道分だけでも負担が軽くなるというのは大きいですから」
「なるほど」
「これで彼に頼まなくともよくなるかもしれませんね。この船の分も足してみれば……ああ、それでもまだ足りませんね。何処かに……目的の港に船が転がってないですかね」
女性が冗談めかしてそういうが、ヒヅキは相槌を打つだけ。今の話を聞いて、ヒヅキは知らなければよかったかもと少し後悔したのだった。
元々自前で往復するしかないかみたいな話もあったので、女性は先程の話を平然としていたが、それはつまり、ヒヅキではどうやったったって全て充填するのにかなりの時間が掛かるであろう量の蓄魔石――しかも最初から半量以上充填済み――を含めて、見つけた魔石全ての魔力量でも、女性にとっては自前の半量にも満たないと言っていたに等しいのだから。




