旅路54
身体強化での望遠は中々のもので、フォルトゥナが水魔法で創ったモノには及ばないながらも、想像以上によく見える。とはいえ、目の前に在るほどとまでにはいかないが。
それでも、人であれば声を張り上げなくても会話が出来そうな距離にまで見えるので、港までの距離を見る分には問題ない。フォルトゥナの言う通り、視界も先程覗いた水魔法のモノよりも広いので使いやすい。
今よりも更に遠くを見る時には先程の水魔法が必要になってきそうだが、そんな予定は無いので、必要ないだろう。一応やり方は聞いておくが。
ヒヅキがフォルトゥナと話をしている間に女性とクロスの方の会話は終わったようで、出港準備に取り掛かっていた。しばらくは船旅になりそうだ。
ちなみに、女性とクロスの会話をヒヅキが聞いた限りでは、クロスがこの船に乗船していた理由は、どうやら船に搭載されていた魔法道具を勝手に改造していたかららしい。
船速関連を中心に色々改造していたようで、クロスは魔法道具を含めてこの船はお粗末だったと評していた。ただ、魔法道具にはある程度手を加えられても船自体には手を加えられないので、出来には大いに不満がある様子。魔法道具にしても、もっと材料や設備が欲しかったとかなんとか。
それはさておき、最早中身は別物とも言える船の出港準備が整ったようで、女性が出向を言い渡した。
船の魔法道具を操作するのは、改造した本人。操舵室に航行に必要な魔法道具の起動装置が集められており、操作も出来るようになっているらしい。この辺りは整備場で見た設計図と同じなので、これは元々の構造だろう。
船はゆっくりと速度を上げていく。ヒヅキは小さくなっていく港を眺めながら、初めての船旅に少し胸を高鳴らせる。
港か見えなくなる場所まで出た頃には、船の速度もかなりのモノになっていた。といっても、ヒヅキは船内に居るので速度はよく分からないが。
船内から見えるのが何処までも海面なので、進んでいるのは分かっても、その速度まではイマイチ分からない。特にヒヅキはこれが初めての航海なので、余計に速いのかどうか分からなかった。
大きな船だけに船内は広い。船内の上層は客室なのか、狭いながらも個室がずらりと並び、奥の方には貴賓室なのか連なった広い部屋が在る。
その下は船員の部屋なのか狭い部屋に2段になった寝床が並び、寝る以外には何も出来そうにはない。他にも食堂らしき場所や、それに併設された食糧庫らしき場所も在ったが、今は机や棚が在るだけで何も無い。
その下も似たようなモノ。更に下は貨物室なのか部屋も何も無く、ただただ広い場所があるだけ。
魔法道具の動力となる魔石などを入れている動力庫は、乗組員の部屋がある階層と貨物室に分けて幾つか設置されていた。ひとつひとつはそれほど大きな物ではないので、天井に張り付くようにしてひっそりと設置されていたが。それを見たヒヅキは、魔石の交換が大変そうだなと思った。
中身を全て蓄魔石のみに出来れば、蓄魔石へと魔力を供給する仕組みを設けるだけでいいのだが、整備場の地下倉庫で見つけた魔石の量と蓄魔石の量を思えば、蓄魔石を造るのは魔石ほど簡単ではないのだろう。それでも結構な量があったので、中には全て蓄魔石だけを載せているという船もあったのかもしれない。
まぁ、船内の見学を終えればヒヅキにはそんな事など関係ないので直ぐに忘れたが。ただ、この航海が終わって船がもう必要ないのであれば、この動力は回収していてもいいのではないかと思った。
何もやる事がないヒヅキは航海中は時間があるので、忘れないうちに女性に見つけた魔石と蓄魔石の話をしておく事にした。
フォルトゥナを伴い、ヒヅキは女性が休んでいる部屋に移動していく。英雄達の数は多いが、それ以上に船室の数の方が多かったので、一人1部屋宛がわれている。
到着した扉をヒヅキが叩くと、中から女性の声が聞こえてくる。女性と少し言葉を交わした後、ヒヅキはフォルトゥナと共に部屋の中に入った。




