旅路51
使える魔法が増えただけではなく、人間界に居た頃と違って、今であればヒヅキも魔物には多少は詳しくなった。そのうえで、魔力が豊富な海水があれば、魔物は自身が生まれた高濃度の魔力の範囲外に出て自由に生きていけるのかと考えてみる。
(海水の魔力濃度次第なのは当然として……)
ヒヅキは森を抜けて初めて海を見た時の様子を思い浮かべてみる。しかしあの時は波打ち際、つまりは海の端の部分であったからか、そこまで魔力を感じなかった。件の高濃度の魔力であれば、その時に直ぐに気づいただろう。
次は海の方に意識を向けてみる。だが、距離が離れているからか、特に何も感じない。もう少し近づいてみれば分からないが、少なくとも現在位置からではおかしなところは何も無かった。
(まぁ、この辺りは海に出る時にでも分かる事だろう)
その時になれば、その説が正しいのかどうか分かるというもの。仮に魔物がそこら中をうろついていたとしても、それほど数は多くないか、結構陸から離れないと遭遇はしないのではないかと思っている。そうでなければ、船旅どころか漁も満足に出来ないだろう。ここは結構栄えていたように思えるので、船で荷物を移動させたり漁をしたりとしていたのではないかと容易に推測出来る。であれば、仮に魔物が海を自由に行き来していたとしても、遭遇率はそれほど高くはないのだろう。
(それとも、海面近くは魔力の量が少ないとか?)
可能性というモノは考えればきりがない。それが絶対に必要な情報かと問われれば、何とも言えないだろう。これが普通の者達での船旅ならば必死に情報をかき集めて吟味すべきなのかもしれないが、一緒に旅をしているのは、誰も彼もが魔物だろうとスキアだろうと問題にしない者達ばかり。海上という特殊な環境ではあるが、多分問題ないだろう。
(海の上で戦うとしたら、どうやって戦えばいいのか)
海も見た事が無かったので当然だが、ヒヅキは海上での戦闘というものを経験した事がなかった。なので、船上では足場が不安定なのは予想出来るが、どれぐらい不安定なのかが分からない。
戦場が海上という事で海の中の確認が難しいのは分かるが、それがどれぐらい難しいのかが分からない。他にも海中に攻撃が届くのか、船が沈められた場合はどうすればいいのかなどなど、考えるだけでも分からないことだらけだ。
一応自分なりの答えを考えてみるが、それが役に立つのかといえば、ほぼ無駄だろう。英雄達の中には海戦の経験者ぐらいはいそうだが、誰が誰かをヒヅキは知らない。今まで大して交流してこなかったので、片っ端から声を掛ける気分にはなれなかった。
英雄達の中で唯一交流のあるクロスはどうだろうかと思い、ヒヅキは視線で英雄達の中を探してみるが、探し人は見つからない。
一人一人確かめるように英雄達に視線を向けてみるも、やはりクロスの姿が見当たらない。クロスは子どものような背恰好なので、いつもであれば直ぐに見つかるはずなのだが。
ヒヅキは少し考え、もしかしたら町の散策をしているのかもしれないと考える。ヒヅキとフォルトゥナがしたように、英雄達も休憩中は同様に町を見て回っても何の問題もない。普段休憩場所からほとんど動かないので、そういうものかと思い込んでいただけで。
居ないならばしょうがないかと考え、ヒヅキは思考を切り替える。
(それにしても、大量の魔石と蓄魔石だったな。それも高品質の)
魔石も蓄魔石も使えればいいので、人工物か天然物かなんてどうだっていい。とりあえず女性が戻ってきたら渡してみるとして、問題は量が足りるかどうかだ。
(ここからだったとしたら……うーん、多分問題ないとは思うが)
ヒヅキは偽りの器が在った森の中を思い浮かべるも、そもそも偽りの器が在った場所が何処かは分からない。偽りの器への道は場所が変わるらしいから、今もあの森の中に在るとは限らなかった。
であれば、直接偽りの器の在る場所へと転移するべきなのだが、その場所はもっとよく分からない。なので、ヒヅキは途端に持ってきた魔石や蓄魔石で足りるのかどうかと不安になってくる。とはいえ、その辺りも結局は女性任せになるだろうが。




