旅路49
入り組んだ細い道をヒヅキとフォルトゥナは並んで歩く。
そこはまるで迷路のような道ではあるが、休憩場所の方角は覚えているし、そもそもただの道であって迷路ではないので、問題なく目的地近くまで辿り着いた。
そろそろ休憩場所が見えてくるという段階になっても、フォルトゥナはヒヅキに引っ付いたまま離れようとしない。そろそろ目的地に着くのはフォルトゥナも分かっているはずだが、ヒヅキは一応その事を伝えておく事にした。
『フォルトゥナ、そろそろ休憩場所に到着するけれど』
『そうですね。結構入り組んだ道でした』
ヒヅキの言葉を、フォルトゥナは軽く聞き流す。道中も何度か似たようなやり取りをしているので、既にヒヅキも諦めている。まぁ、別に見られて困る事でもないので問題は無いのだが。ただ。
(流石に少し慣れてきたけれど、やはり歩き難い)
誰かを引っ付けたまま歩くというのもそう経験がある訳でもないので、こういう時にどういう風に歩けばいいのかがヒヅキには分からなかった。なので、非常に歩き難い。現状の唯一の問題は、そこであった。
そのまま休憩場所に到着する。英雄達は気にもしないようで、腕にフォルトゥナを引っ付けたヒヅキを見てもほとんど反応しない。
ヒヅキは女性は帰ってきているのだろうかと見回してみるも、その姿は確認出来なかった。
(まだ時間が掛かるのだろうか?)
予想よりもやや遅れて到着したと思っていただけに、それ以上に遅いらしい女性にヒヅキは、何処で道を探しているのだろうかと町の方へと視線を向けた。
町は広いが、それ以上に道が複雑に入り組んでいる。海の方に行くほど海へと真っ直ぐに延びている道が増えていてそうではなくなるのだが。
(もしかして、河向こうの町の方へと行ったのかな?)
そうであれば、河を渡るので苦労するだろう。ヒヅキが確認した限りでは、河に舟は1艘も浮いていなかったのだから。
(海の方面は見ていないけれど)
そう思うも、そもそも女性であれば舟すら必要ないかもしれない。ふとそんな考えが浮かぶ。あの女性であれば、何をしてもそこまで驚かないだろう。もしも空を飛んでいたとしても、それぐらいは出来るだろうと納得しそうなほど。
とりあえず、まだ戻ってはいないというのは分かった。しかし、既にそれなりの時間が経過しているので、今からまた町に出るという気分でもない。
ヒヅキは町の散策は諦めて、近くに在った背の低い石垣に腰を下ろす。ヒヅキが荷物を下ろす時に一旦離れたフォルトゥナだったが、座ると直ぐに引っ付く。
そうしていると歩き難いだけなので、座っている状態では別に気にはならない。
腰に吊るしている水筒から魔力水を少し飲むと、一息つく。
そのまま町を見回してみる。全景が見えるほど高い場所に居る訳ではないが、それでも斜めに町が出来ているので、下の方はある程度は確認出来た。
(静かだな)
突然生き物だけが居なくなったような町の様子に、ヒヅキは背嚢から取り出した干し肉を齧りながらそう思う。それは既に見慣れてしまった光景ではあるが、だからといって何も思わないという事はない。
(世界の終わり)
その光景は正しくそれを表しているかのようにも思えるが、本物はまだこんなものではないとヒヅキは思っている。
(遺跡しか遺らないというのは異常だ。遺跡周囲も漏れなく何も遺っていないようだったし)
今まで巡った遺跡を思い出すと、遺跡の範囲内となる場所は昔の様子を遺していたように思える。遺跡内部に在った町など特に分かりやすい。
しかし、おそらくそれに周辺への魔力の侵食は含まれていないのだろう。魔族領の遺跡は、ヒヅキにはこの世界で改めて侵食したような感じに見えた。
とはいえ、正直ヒヅキにはその辺りはどうだっていい話だ。遺跡に逃げ込むつもりは最初からないのだから。
ただ、何故遺跡の場所だけ遺すのだろうかと少し疑問に思っただけで。まぁ、スキアの材料のように、遺跡に入れたモノを何かしらに利用する為だろうが。
(本当に神というのはろくな存在じゃないな)
そこまで考えたところで、価値観が自分達と違い過ぎて理解出来ない相手に、ヒヅキは小さく息を吐き出した。




