旅路46
「これは……蓄魔石ですね」
「ん?」
フォルトゥナの言葉に反応して、ヒヅキはそちらに意識を向ける。フォルトゥナの手には、先程の魔石よりも色の濃い半透明の結晶があった。大きさは先程の魔石よりも大きい。
「蓄魔石が在ったのか?」
「はい。魔石の下に別の布に入れられて置かれていました」
「なるほど」
ヒヅキは視線を箱の方に移すと、確かにそこには別の布に入れられた、先程の魔石とは違う半透明の結晶が在る。量としては、先程見つけた魔石の半分ぐらいか。それでも十分過ぎるが。
「こちらも質が高いですね」
蓄魔石を眺めていたフォルトゥナがそう評する。確かに鉱物にしては透き通っていて奇麗だが、ヒヅキは現物をあまり見た事が無いので、知識として知っている程度だ。
「ここは魔石関連が豊かな土地なのかな?」
フォルトゥナがそう評するのであればそうなのだろうと、ヒヅキは蓄魔石の質については横に措き、気になっていた事をフォルトゥナに尋ねてみる。
「そうですね……おそらくですが、そこの魔石もこの蓄魔石も人工物ではないかと」
「人工物? つまりはここではそれが造られていたと?」
「ここでかは分かりませんが、ここでこれだけの量が手に入る範囲にはそれがあったのでしょう」
「なるほど」
魔石は魔力の塊である。なので方法は解らないが、やろうと思えば出来るのだろう。だが、蓄魔石の方はどうやっているのだろうか。その事を疑問に抱いたヒヅキは、フォルトゥナに問いを重ねてみる。
「魔石の方はいいとして、蓄魔石の方はどうやって生成しているのだろうか? あれは鉱物だろう?」
「申し訳ありません。私ではその辺りまでは分かりません」
ヒヅキの方を向いて立ち上がると、申し訳なさそうに頭を下げたフォルトゥナに、ヒヅキは頭を上げさせる。フォルトゥナは別に専門家という訳ではないし、そもそもこの辺りの生まれですらないのだから、知らなくてもおかしくはない。ヒヅキは何処かで女性相手に質問している気分になっていた自分に気づき、そんな自分を恥じた。普通は問えば何でも答えが返ってくる訳がないというのに。
そうして話を終えると、フォルトゥナは再度魔石と蓄魔石のほうを調べ始める。ヒヅキも魔石と蓄魔石をひとつずつ受け取り、調べてみる。何か成果が出るとは思っていないが、それでも何かしら発見があるかもしれない。
(ふむ。やはりかなり透明だな)
光球の明かりに透かして見てみれば、どちらも半透明ではあるが光がよく見えた。
魔石の方は魔力の塊のようなので、透明度が高いほど純度が高いというのをヒヅキは知っている。それでも、純度をどれだけ高くしようとも、まるで透明のようなというほどには出来ないらしいが。
それを念頭に判断すると、この魔石は高純度の魔石となる。それが人工物か否かはヒヅキには分からないが、これだけ純度が高ければ人工物と考えた方が自然なのかもしれない。
蓄魔石の方は、ヒヅキでは何とも言えない。蓄魔石は魔力を蓄える事が出来る鉱物の名前のはずだが、手に持つ蓄魔石は半透明で、もう片方の手で持つ魔石より純度が低い魔石と言われた方が納得出来そうだった。
(だが、少し魔力を流してみると、確かに魔力を蓄えている。なので、蓄魔石なのは間違いないとは思うが……)
あまり見る機会というのが無い代物なので、ヒヅキとしてはどう判断すればいいのか分からない。昔読んだ本に蓄魔石の挿絵が描かれていたが、そんな物で判断出来ようはずもない。ヒヅキも一応実物を見た事があるにはあるが、その時は艶のあるその辺りの石ころだったという覚えしかなかった。
やはりそれだけでは判断に困るので、蓄魔石の方はフォルトゥナに任せて、ヒヅキは魔石の方に集中してみる。
(うーん、透明だ。それに見た目以上に魔力を感じる。これが高純度の魔石なのか)
ヒヅキは魔石を何度か見た事があるし、実際に手に持った事もある。しかし、その時でも今ほどの魔力は感じなかった。同じぐらいの大きさの魔石だと普通の魔法1発分にも全く届かないはずなのだが、この魔石であれば、もしかしたら最低出力の光球ぐらいならいけるかもしれないと思えるほど。実際には少し足りないだろうが。
(人間界で見た魔石の数倍、いや10数倍は魔力量が内包されていそうだな)
大きさと蓄えている魔力量というのは比例する。それを思えば、高純度の魔石というのはあまりにも馬鹿げた出力の魔石であった。




