旅路44
ヒヅキが起動装置に魔力を通すと、離れたところで何かが開いたような小さな音がした。
フォルトゥナに教えてもらった場所まで移動すると、そこの床に指1本分ほどの小さな隙間が出来ている。ヒヅキはしゃがんで調べてみるも、罠のようなものはなさそうだった。
問題なさそうだと判断したヒヅキは隙間に手を掛け、慎重に開けてみる。この先はおそらく地下倉庫なので何も無いとは思うのだが、念の為に。
床を開くと、中には梯子が掛けられていた。
足下に気をつけながらその梯子を下りてみると、直ぐに床に到着する。深さは大体2メートルちょっとぐらいだろうか、ヒヅキの背丈よりは高い。
上から明かりが射し込んでいるとはいえ、元々建物内は薄暗かったので、地下ともなると流石に暗い。
ヒヅキが光球を出してみると、その光に地下に造られた空間が照らされる。
地下倉庫の広さは、横幅3メートルほどだろうか。奥行きは5メートルほどあるが、倉庫としては狭い。
それでいながら、右側には棚が3つ並んで置かれている。おかげで人一人通るのでやっとの道幅しかない。
奥の方に何やら横に長い箱が置かれているが、他には目につく物はなさそうだった。
ヒヅキは奥へと進み、棚を調べてみる。棚は組み立て式の金属製で、場所柄かあまり厚みは無い。高さは天井に届くかどうかといったところ。
その棚には箱が収められている。側面に短い言葉が書かれているが、先程見たどれかの書類で見た文字だった。
(確か……整備部品の名前だったか?)
思い出しながら全ての箱を確認していくと、3つの棚の内2つは整備部品の名前が書かれた箱ばかりで、中身を確認してみても整備部品に馴染みが無いので、ヒヅキには多分そうだとしか言えなかった。
残った棚には、鍵付きの箱が並んでいる。箱には何が入っているのかの表記が無い。持ち上げてみると、どうやら箱は棚と鎖で繋げられているようで、少し持ち上げるのが精一杯のようだ。
随分厳重だと思いながら、箱に掛けられている鍵を確認してみる。こちらは普通の南京錠で、鍵さえあれば簡単に開きそうだ。魔法的な護りや罠は感じられない。
「ふむ」
そんな鍵など手元に無いので、ヒヅキは少し考えた後に小さく現出させた光の剣で錠前を破壊する。
錠前を破壊したので、後は簡単に箱は開けられた。中を覗いてみると、どうやら船に取り付ける魔法道具だったようだ。
(中身がこれじゃあ、下手に魔法も使えないか)
魔法による護りを箱に付与してしまうと、下手をすればその魔力に魔法道具が反応しかねない。そうある事ではないとはいえ、起動していない魔法道具というのは管理が難しい代物だった。
なので、本来であればフォルトゥナが見つけた魔法道具のように無造作に置かれたりはしないし、舟に取り付けてあった魔法道具も本当であれば外しておくべきなのだが、もしかしたら襲撃を受けた訳ではないにせよ、結構急ぎで避難したのかもしれない。
とりあえず中身が分かったが、ヒヅキには必要ではない魔法道具ばかりだった。持ち運びしやすい小さな物は研究用として幾つか貰っておくが。
その後に奥の長箱に目を向ける。こちらも錠前が掛けられているが、おそらく魔法の罠が仕掛けられているので、正しい手順で開けなければ罠が作動するだろう。どんな罠かまではヒヅキでは分からないが、油断は出来ない。
ヒヅキはどうしようかと考えた後、自力での解錠は難しいかもしれないと思い、フォルトゥナに開けられないか尋ねてみる事にした。何となく、フォルトゥナならば大抵のことは出来そうな気がして。
そう思い地下から出ると、出て直ぐの場所でフォルトゥナが待機していた。
「……全部調べたの?」
一瞬驚いたヒヅキだが、直ぐに気を取り直してそう問い掛ける。
「はい。この辺りには地図ぐらいしかめぼしいモノはありませんでした」
「そうか」
「地下はどうでしたか?」
「ああ、それなんだが――」
ヒヅキはフォルトゥナに長箱の事について説明していく。それで開けられるだろうかとフォルトゥナに尋ねてみるも、フォルトゥナは見てみない事には何とも言えないと答えた。
それもそうかと納得したヒヅキは、地下から出た後、交代してフォルトゥナが地下へと入っていった。ヒヅキも気になったので、その後に続いて再度地下へ降りていく。




