旅路42
念の為にもう1枚別の場所の紙を手にしてみる。それに目を通してみると、今度は就業規則が大きな文字で書かれていた。書かれている規則の数が少ないので全てではないだろうが、もしかしたら何処かに張り出す予定だったのかもしれない。
その紙を元の場所に戻すと、ヒヅキは周囲を見回しながらフォルトゥナの許に移動する。
フォルトゥナはまだ調べ物をしているが、整備や修繕の道具以外だと紙ばかりのようだ。あまり期待は出来なさそう。
ヒヅキは何か手伝える事はないかと尋ねてみると、書類の確認を頼まれた。もしかしたら何かしら重要そうなことが書かれているかもしれない。
了承すると、ヒヅキはまだフォルトゥナが手をつけていない書類を確認していく。そうしていると、その中に魔法道具の取り扱いに関しての説明が書かれているものを見つける。
書かれているのは船に使われている魔法道具のようだが、記載されている数が思った以上に数があった。
人間界では魔法道具は一部を除き希少品だったが、手元の書類に記載されている数を見るに、どうやらこの辺りでは魔法道具はそこまで希少品という訳ではないようだ。
別の書類には魔法道具の購入価格と納入数が記載された書類があったが、フォルトゥナが確認済みの書類にあった整備部品の納入書と見比べてみる限り、どうやら使用している魔法道具は少しお高い程度らしい。
ヒヅキが魔法道具の説明を流すように読んでいくと、それなりに高性能であったようだ。それが少しお高い程度というのであれば、もっと下の魔法道具は気軽に手が出せるような値段設定なのかもしれない。
それはさておき、魔法道具の説明というのは役立ちそうな情報だ。
まずはどんな魔法道具が船に搭載されているのか確認していく。その中に、先程ヒヅキが確認していた推進力を生みだす魔法道具についても書かれていたが、どうやらあの魔法道具は動力の主ではなく補助らしい。それでも舟にはそちらの方が都合がよかったのだろう。主軸の動力だと力が強すぎて転覆しかねないらしいから。
他には、明かりの魔法道具や大きな音を出す魔法道具などの非殺傷な魔法道具が続く。時折攻撃用だろう魔法道具も確認出来るが、あまり数は多くない。
それを見ながら、それもそうだろうとヒヅキは思う。
魔法道具を使用するには、当然だが動力として魔力が必要になってくる。周囲から魔力を供給するという方法もあるにはあるが、あれは出力の小さな魔法道具向けであり、出力が大きい魔法道具には向かない。ちょっとした補助程度にはなるかもしれないが。
それに周囲の魔力を自動で取り込む方法だと、同じ方法の魔法道具の密度が高いと効果が薄くなってしまう。なので、多くの魔法道具を運用するには、何処かに魔力を供給する仕組みが必要になってくる。つまりは魔石などで魔力を貯蔵しておける場所である。それが無理なら使用時に使用者が魔力を供給出来る仕組みか。あの起動装置のような。
ヒヅキは確認済み書類の中から船の設計図を探して取り出す。
それに目を通してみると、フォルトゥナが言った通りに途中途中に塗りつぶしている部分があるのが確認出来る。
それでも読み取れるものというのはあるので、ヒヅキは船に搭載されている魔法道具一覧と見比べながら確認していく。そうして分かったのが。
(この塗りつぶしている部分の大半は動力部だろうな)
複数ヵ所に分散して配置されているが、個々の場所はあまり大きくはない。動力だろう魔石はそれほど大きな物ではないからそれでいいのだろうが、量より質なのが一般的な魔石とはいえ、ここの動力部では明らかに小さい。
それでも動力部と思われる場所全てを足せば十分だろう広さがある。なので、やはり動力部を分散させているのだと思った。
そんな中で一際大きな動力部は、推進装置か攻撃系の魔法道具の方の動力だろう。
その魔力をどうやって魔法道具へと供給しているか、それについては隠されているので把握は難しい。おそらく塗りつぶされている何処かにその一端が描かれていたとは思うのだが。
とはいえ、造船する訳でもないので、そんなことを思案してもしょうがない。とりあえず魔法道具に関しては十分な魔力供給が出来るのだと分かった。潤沢な魔石が必要なので、そう頻繁に使える訳ではないだろうが。
それとも、この近くに大量に魔石が採れる場所でも在るのだろうか? 魔物もこまめに見つけては駆除していれば問題ないだろうし。大変なのは最初だけだ。
(もしかしたら、何処かに大量の魔石が保管されているのだろうか?)
そこでヒヅキはふとそう考えた。
ここは襲撃されたのではなく避難したようなので、その際に魔石も一緒に持っていったのかもしれないが、それでも可能性が無い訳ではないだろう。
ヒヅキの脳裏に、今代の神への道を開いたと同時に偽りの器を破壊するという計画で大量の魔石があればそれを解決出来るかもしれない。という案を思い出す。
現在はクロスがそれを担当する事になってはいるが、その際に使用するらしいクロスの持つ剣の柄頭に嵌め込まれている玉について、ヒヅキはいい印象を持っていない。なので、可能な限りあれは使わない方がいい代物だろうと考えている。
そんな中で、もしかしたらここで大量の魔石が手に入るかもしれないという可能性である。更にはこんなにも魔法道具が日常的なのだから、蓄魔石のひとつやふたつ、いや10や20はあってもおかしくはないだろう。そう思えば、結構な収穫かもしれないと思えてくる。
ヒヅキはとりあえず自分の考えをフォルトゥナに語ってみる。おかしな点はないかもしれないが、わざわざ説明するのは、何処に魔石類が貯蔵されているのかを一緒に考えてもらう為でもあった。




