旅路41
発見した切れ込みの上部を持ち上げるようにして引っ張ってみると、どうやら出っ張りの上部はふただったらしく、ぱかりと扉のように簡単に開いて向こう側に倒れる。
中から出てきたのは、ひと回りぐらい小さな出っ張り。大きさを除けば、色が違うという以外はふたをしていた時と変わらない。しかし、魔力を流してみると、先程よりもはっきりとした流れを感じた。
それが起動装置で間違いないようだ。そうヒヅキが思ったところで、ドンと音を立てて舟が揺れる。
「うお!?」
突然のことに一瞬何が起きたのかと思考が漂白されるが、ヒヅキは直ぐに「ああ」 と納得して船主の方に目を向けた。
「そりゃ、推進装置の魔法道具を起動させたら前に進むか」
驚いて魔力供給を止めたので、今は先程の揺れで起きた波で舟が多少揺れている程度で静かなものだが、魔法道具を起動させたことに変わりはない。
設置されている魔法道具はフォルトゥナの読み通りに推進装置だったらしく、ヒヅキは不用意に起動させた結果、停泊中だった舟が壁にぶつかったという訳だ。
どうやら船主か壁の方に衝撃を和らげる魔法が施されていたようで、揺れはしたが舟に損傷はない。推進装置もそこまで出力の高いものではないようで、それも舟が損傷しなかった理由だろう。
ヒヅキはその辺りを確認して安堵すると、もう1度起動装置の許に戻り、今度は不用意に起動しないように注意しながら調べてみる。
そうして調べてみた結果、やはりそれは起動装置で間違いないようで、慎重に魔力を微量だけ流して調べてみると、この起動装置は流す魔力の量で出力が変わるようだ。
ただ、全開でもそこまで高い出力にはならないようになっているらしい。おそらく全開でも人力で漕ぐより少し速い程度だと思われる。
それと安全装置とでも言えばいいのか、この起動装置はある程度の魔力を流さない限りは起動しないように設計されているようだ。なので、ヒヅキが箱の上から魔力を流しても起動しなかったという事らしい。この辺りは周囲の魔力で誤作動しない為の配慮だと思われる。
その方法は魔法道具を作製する際には一般的ではあるが、この起動装置はそういった安全面への配慮の部分が大きく占めているようだ。フォルトゥナが見つけた魔法道具とは異なるのは、これが起動装置だからだろう。
十分に調べたので、ヒヅキは次の舟に移る。
その後も幾つもの舟を調べてみたが、造りは同じであった。それと起動装置経由で魔法道具も調べてみたが、フォルトゥナが見つけた魔法道具と同じものであった。
造りは事前に調べた通りに単純で、前方で水を吸ってから管を通して後方へと送り、後方から送った水を吐き出すだけ。ただそれだけなので、この推進装置を起動させた場合、舟は前にしか進めない。
それで不都合がある訳ではないが、それでも補助としてだが、変わらず櫂は欠かせないようだ。
一通り舟を調べ終わる。全てではなかったが、大半の舟にはその魔法道具が取り付けられていた。
フォルトゥナの方はどうなっただろうかと思い、ヒヅキはフォルトゥナが現在調べている部屋の方へ向かう。
部屋は建物の横奥の方に在り、壁に沿った細長い造りになっていた。その部屋の幅は、大人二人が横に並べば窮屈なほど。
扉は両端にひとつずつ在り、ヒヅキが部屋の中を覗くと、反対側でフォルトゥナが部屋の中を調べていた。
『何か在った?』
仕切りが無いので1部屋なのだろうが、それでも縦長の部屋なので、フォルトゥナが居る反対側までそれなりに距離がある。叫ぶのも面倒だったので、ヒヅキは遠話でフォルトゥナに語り掛ける。
『これといっては何も。ここには舟の整備記録やら、そこの水門を通った船の記録に、部品の補充要請書などの事務書類ばかりです。多少興味深いのは船の設計図ぐらいでしょうか。ですが、これも表面的な部分ばかりで重要そうな部分は塗りつぶされています』
『なるほど』
ヒヅキの方を振り返り、フォルトゥナは周囲を見回した後に手元の紙を見せるようにひらひらと振ってそう説明する。
それにヒヅキは頷くと、近くに在った紙を手に取って目を通してみる。それは就労時間表のようで、確かにヒヅキ達にとっては必要のない事務書類であった。




