旅路40
とりあえず、予想とはいえ使い方は分かったが、どうやってそれを取り付ければいいのかは分からない。
必要かどうかは知らないが、一応考えた方がいいのかもしれない。そう思ったヒヅキだが、仮にこれが水上での推進装置なのだとしたら、これが取り付けられている舟があるかもしれない。
もしかしたら、見て回った中でそうと知らなかったので見落としていたという可能性もあるだろう。ヒヅキが主に調べていたのは、浸水しないかどうか、破損はないかといった水上部分なのだから。
ヒヅキは魔法道具をフォルトゥナに渡すと、改めて舟を調べてみる事にする。その間、フォルトゥナは他に何かないかと置かれている道具や部屋を調べてみるようだ。
フォルトゥナと調べる場所を分けた後、ヒヅキは改めて舟を調べていく。
今回は水中も調べる必要があるので、とりあえず前回調べた時に問題なかった舟に乗り込み、舟の前後から舟底を覗き込む。
「……ふむ」
両端の舟底を確認したヒヅキは、先程目にした魔法道具を思い浮かべ、もう1度舟底を確認してみる。
「あれが推進装置か?」
光量が乏しいというのもあるが、舟底から僅かに顔を出しているだけの物体では、それの正体を探るのは難しい。辛うじてそれが円柱状の物体であることは分かるのだが。
これは1度水の中に潜って調べないと駄目だろうかとヒヅキは考えるも、直ぐに冷静になって他に方法はないかと思案を巡らす。濡れても乾かせばいいのだろうが、それでもあまり進んで水の中に入りたいとは思わない。
舟を見回しながら思案すること少し。ヒヅキはそういえばと思い出す。
「この魔法道具、どうやって起動させるのだろうか?」
すっかり失念していたが、魔法道具である以上、それを起動させなければ意味がない。推進力を得るというのであれば、常時起動させている訳にはいかないだろう。でなければ、装着したままこうして舟を係留させておくなど不可能だ。
であればこそ、もしも舟底に取り付けられているのが本当に魔法道具であるならば、何処かに起動する為の何かが在ってもおかしくはないだろう。
(このまま魔力を舟に流すとかでなければだが)
わざわざ魔法道具を起動させる為の装置を用意しなくとも、舟を介して魔力を魔法道具へと送り込めば起動させる事が出来なくはない。しかし、それはそれで無駄が多いのだが。
それでも、その場合は起動装置が無いので、そこに魔法道具が在ると知らなければ見逃してしまうかもしれない。先程までのヒヅキのように。
(まぁ、前回は別に魔法道具があるかどうかを調べた訳ではないからな)
などと自分に言い訳をしつつ、ヒヅキは船尾の方へと移動する。舟の上にはそれほど物がある訳ではないので、起動装置になりそうな物といっても分かりやすく置いている訳ではないのだろう。
そんな中、ヒヅキは船尾の方にちょこんと盛り上がっている部分を見つける。一見何かを引っ掛けるような出っ張りに見えなくはないが、係留するのに結んでいるのは船首の方だし、小さな舟で何かを曳くとも思えない。
では何かと言えば、多分舟の飾りだという答えが最もしっくりくるのだろう。それほどまでによく分からない出っ張りだった。
それでも、普通に舟を調べるだけであればそこまで気にはならないだろうと思えるので、もしもこれが起動装置ならば、巧く偽装しているとも言えるのかもしれない。
そんな事を考えながら、その出っ張りに手を置く。そしてそのまま調べてみると。
「んー……何かが違う?」
調べた結果、それはおそらく起動装置で間違いはないのだが、しかし何だか曖昧というか、ぼやけているような感じがした。
ヒヅキは不思議に思い、一旦手をどけてその出っ張りを調べてみる。
「あ」
すると、ヒヅキはその出っ張りに薄っすらとだが切れ込みが入っているのを発見して、思わず小さく呆れたような声を漏らしてしまった。




