ギルド訪問
シロッカスに新たな仕事依頼を受けた翌日。
ヒヅキは想定以上に空いてしまった時間をどうしようかと頭を悩ます事態に陥る。
ベッドの上で暫く考えた結果、とりあえず、昨日食堂で考えていたシラユリに礼をする為に一度訪ねてみる事に決める。
(しかし、礼をするといっても、一体何をすればいいんだろうか?)
道中、ヒヅキは今更ながらにそんな事を考える。
礼を述べる事を思いついたまではよかったが、肝心の内容までは考えていなかったのだった。それは、教えてもらったギルドへと向かう道中でも未だに何も決まってはいないほどに。
いきなり「あの時はありがとうございました」 とだけ言われても困るだろうし。……せめて何か手土産でも用意するべきなのだろうが、何を持参すれば喜ばれるのかも分かっていなかった。
「というか、そもそもガーデンに居るのかな?」
元々シラユリを含めた三人は、他に用事が在るからとシロッカスの護衛依頼を離れたので、もしかしたらギルドを訪ねても外出していて不在かもしれない。特に用事が仕事関係だった場合、そもそもガーデンに居ない可能性さえあった。
「……浅慮が過ぎたかな?」
そこまで思い至り、ヒヅキは流石に無計画が過ぎたかなーと、既に後悔を覚え始める。
「もう帰ろうかな……」
まだ手土産も何も用意してはいないのだ、引き返すならば損害の少ない今のうちだろう。
「う~ん……どうしよう」
あの時の事は今思い出してみても感謝の念が浮かぶ為に、もう一度改めて礼を伝えたいとは思うのだが、相手が居るかどうかは不明の状況。しかし、それは逆に居るかもしれないという意味にもなる為に、ヒヅキは通行の邪魔にならないように一度道の端に寄って立ち止まると、どうしようか思案を開始する。
そして寸刻の思案の後、どうせ予定は無いからと、ヒヅキはとりあえずシラユリのギルドに行ってみる事に決めた。
そうと決まれば、まずは手土産をどうしようかと辺りを見渡す。
現在地がガーデン中央から大分離れた区画の為か、人通りはそこまで多くはなかった。
多くはないと言っても、ぶつからずになんとか人とすれ違える程度でしかない。しかし、現在のヒヅキの中での比較対象が昨日の目抜き通りでの体験の為か、普段の基準から少しだけずれていた。
シラユリの好物など知らないヒヅキは、見渡した通りで人が集中している店の人気商品でも手土産として買う事に決める。
見渡した視界で、人が集まっている場所は数ヶ所確認出来た。その中でも、比較的女性の多い店へと移動を開始する。
その店は少し年期を感じさせる菓子屋だった。
菓子屋といっても、昨日アイリスと共に訪れた様な小洒落た菓子屋と違い、店の外観同様に昔ながらといった感じの、昔から家庭で作られているような菓子を扱う店だった。
よく見ると、来店客も女性は多いものの、平均年齢は高そうな気がする。
それを見てヒヅキは一瞬だけどうしようかと考えたものの、まぁいいかと思い直して店内に入ると、商品を確認する。
店内には、ただ小麦粉を焼き固めたり、もしくは油で揚げた物などが幾つか並んでいた。
ヒヅキはその中から適当に一つ買うと、店主に許可を得てからその場で買った菓子を食べてみる。食べた瞬間に広がる甘さは、砂糖や蜂蜜、シロップとも違う独特の優しい甘みで、口の中いっぱいに広がったそれに、どこか懐かしさを覚えた。
菓子が並べられたガラス張りの商品棚を見る限り、どうやらバラ売りが基本のようであったが、隅の方にお土産用に数種類の菓子を納められる木箱が、大小数種類用意されていた。
ヒヅキは、個人宅ではなくギルドを訪問するのだからと、念のためにその中から大き目の木箱を2つ選んで買うと、店主に礼をしたい相手にお土産としてだと告げて、適当に菓子を見繕って詰めてもらうと、それを布に包んでもらった。
店主に礼を告げて代金を支払うと、ヒヅキはそのお土産を手に店を後にした。
「これで大丈夫……だよね?」
手に持つ菓子を見ながらヒヅキは小さく呟くと、僅かな不安も抱えながらギルドへの歩みを再開したのだった。