旅路37
砂浜の道を通って目的の港町を目指す。
ここの海は穏やかなようで、海上が荒れている様子はない。しかし、海鳥の姿もなければ、魚が海上を跳ねる姿もない。ただそこに海が広がっているだけで、生き物が棲んでいるとは思えないほどに静かだ。
波の音を聞きながら、一行は港町へと進んでいく。途中で案内板のような物を見つけたが、残念ながらヒヅキでは何と書かれているかは読めなかった。それでも矢印が描かれていたので、多分案内板で間違いないのだろう。
それからも途中で休憩を挿みつつ進むと、一行はやっと港町に到着した。
そこは真っ白な町だった。町を囲う壁も家々も白い石で造られており、町全体が白一色といった感じ。
しかし、目が痛いほどの白色というほどには白くはなく、色あせたからなのか、やや黄色みを帯びていた。
例によって静かなその町は、誰の姿も確認出来ない。
やはり避難したのだろうとは思うが、一体何処に避難したというのか。この近くにはもっと大きな町でも在るのか、それとも避難場所というのが何処かに存在するのか。何にせよ、誰もいない静かな町だった。
少し前に訪れた漁村とは異なり町中は整備されていて、足下は石の地面。しかし石畳とは違うようで、まるで大きな岩の上に町を築いたかのように継ぎ目がない。
だが、よくよく観察してみると、大きな岩の上に建っているというよりは、岩を隙間なく敷き詰めた後に何かを塗って継ぎ目を消したような感じに思えた。まるで蝋を垂らしたような質感を残すそれは、ヒヅキに鍾乳石を思い出させる。
しばらく町中を進むと、周囲より高くなっている広場に到着する。そこで女性は、一行に長めの休憩を告げると、直ぐに町中に消えていった。
ヒヅキはその後を追おうかと考えたが、行ってもヒヅキでは邪魔にしかならなそうなので、大人しく町中を歩いてみる事にする。
広場からを少し先に進むと、町中を河が流れていた。それもそれなりに大きく、反対側に進むには橋か舟が必要そうなほど。
橋はないかと河の上を見回すも、それらしき影は見当たらない。その代り、足下には河へと下りる階段が等間隔で造られている。その先には短い道。
(桟橋みたいなものか?)
短い道の一部が更に河へと向けて階段状になっているのを見て、ヒヅキはそう考えた。もしかしたらこの場所は、人が居た頃は船着き場だったのかもしれない。
しかし、見たところ舟は無かった。使用しない時に舟を留め置くのはまた別の場所なのかもしれない。
そう考えたところで、少し考えてとりあえず上流の方を目指してみようかと思い、ヒヅキは河に沿って移動する。
移動しながら対岸に目を向けてみると、向こう側にも同じような造りの建物が広がっている。河が流れ込んでいる場所が他にもあるのかどうかは知らないが、対岸の町の規模がヒヅキが今居る側の規模と同程度だと考えると、そこそこ大きな町だったようだ。数千程度の人口はあったかもしれない。
今度は今歩いている側の町に目向ける。角ばった似たような造りの家々が建ち並ぶ。高さはまちまちだが、高くても3階までのようだ。多くは2階建てで、窓の数が普通の家よりも多い気がした。
道は入り組んでいるようで、更には現在ヒヅキが歩いている河傍の道以外には大きな道は見当たらない。なんだか随分と乱雑な印象を受けるが、これもまた町の形のひとつなのだろう。
しばらく歩いていると、道の終わりが見えてくる。河は町を囲う壁を越えて更に先まで続いているが、河には水中の部分が格子状になっている壁と水門があった。
道の終点に到着したので振り返って来た道を見てみると、町が坂道になっているのが分かる。歩いている時は大して気にならなかったが、こうして端から見てみると、町全体に結構な勾配があったのが見て取れる。やはり海が近いからだろうか。そう思ったヒヅキだが、今は舟を探している最中だった事を思い出し、周囲を確認してみる。
そうすると、水門近くの検問所か何かのある場所に中に水を引き込んでいる建物が在るのを見つけた。近づいて窓から中を覗いてみると、中に舟が何艘か停留してあるのを見つける。他にも陸に揚げられてひっくり返されている舟もあった。その中で1艘だけ他よりも大きな船もあったが、そんなものは必要ないのでどうでもいい。
後はどうやって入るかだが、近くに在った扉に手を掛けるも、やはり扉には鍵が掛かっていた。




