旅路34
休憩場所から漁村までは然程離れていないので、ヒヅキ達は直ぐに漁村に到着する。
漁村に入って直ぐの辺りで足を止めたヒヅキは、そのままぐるりと周囲を見回す。周囲には木造の家々が並んでいる。どれも平屋で古めかしい。
直ぐに軒下に置いてある網や櫂などが目に入る。まるで先程まで人の営みがそこに在ったかのようなその様子だが、人の気配は全くしない。住民だけが忽然と消失したかのような気分になる。
ヒヅキは先に来ているはずの女性を探して漁村を歩く。何処も見た目は似たようなもので、新しそうな家は見当たらない。
漁村の中央付近は広場になっていて、その中央に大きな井戸が在る。ヒヅキは近づいて木の板の上に乗った重しと、井戸を塞いでいる木の板をどかしてみる。
中を覗いてみると、底の方でキラキラと水面が光を反射しているのが僅かに確認出来た。どうやら枯れているという訳ではないらしい。目測ではあるが、水量はまだかなり在りそうだ。
井戸の上に木の板と重しを戻したヒヅキは、広場をぐるりと見回す。そうすると、隅の方に小さな箱のようなものが設置されているのを見つける。
それを確かめる為に近づくと、その小箱はヒヅキの膝よりやや高いぐらいの古い箱であった。
しゃがんで小箱を確認してみると、どうやら箱の正面は両開きになっているようで、箱の前には扉が開かぬようにこぶしよりも2回りは大きな石が置かれている。
ヒヅキはその石を横にどけて小箱の扉を開く。
扉を開くと、中には石像が1体納められていた。その石像は人と魚を混ぜたような外見だが、年代物なのか細部が分からなくなってしまっている。
それでもヒヅキは、おそらくそれがここで祀られていた神様なのだと理解する。海を背にするようにして立つその石像は、場所や状況から海神だろうとは推測出来る。ただ、それがどんな神かヒヅキは知らない。
外から小箱の中を覗いて調べてみるも、その石像以外には何も無さそうだったので、ヒヅキは扉をそっと閉じて扉の前に石を戻す。
立ち上がったヒヅキは、再度女性を探して漁村内を歩き回る。しかし、女性の姿は確認出来ない。
(何処かで入れ違いにでもなったか?)
女性の気配は感じなかったが、その辺りは当てにならないので横に措く。
小さな漁村と言っても、二人で人一人を探すには十分広い。もしも相手も動いているのであれば、入れ違いになっていてもおかしくはないだろう。
さてどうしたものかと考えたヒヅキは、1度休憩場所を確認してみる事にする。
女性を探しながら漁村を戻り、漁村を少し出たところで休憩場所が確認出来る距離になる。しかし、休憩場所に女性の姿は見当たらない。
休憩場所の周辺にも視線を向けるも、女性は居なさそうであった。まだ戻っていないのだろう。
念の為に休憩場所まで戻って訊いてみたが、やはりまだ女性は戻っていないらしい。
ヒヅキは漁村に戻り、再度女性を探してみる。隣を歩くフォルトゥナに訊いてみるが、女性は見つけられないらしい。
一体何処に行ったのやらと思いながら、当てもなく歩いていても見つからないので、ヒヅキは民家の中も確認していく事にした。
近くの家の扉を開けてみると、鍵は掛かっていなかったようで簡単に開く。
家の中はがらんとしていて、荷物を纏めて出ていったのだと分かる。元々空き家だったのかとも思ったが、竈には灰や燃え残りが少し残っていたし、横には薪が積まれていたので、誰かが住んでいたのは間違いないようだ。ただ、家の中を少し調べてみるも、何か残っているという事はない。
ヒヅキは家を出ると、次の家を探す。鍵という物が存在しないのか、何処も簡単に中に入れる。
そうして2軒3軒とヒヅキは家の中を探していく。そうして何軒目かの家を探していると、入り口から声を掛けられた。
「ここで何をしているのですか?」
何処か呆れたようなその声音に振り返ってみると、そこには僅かに首を傾げた女性が立っていた。




