小休止15
食事を終えたヒヅキに、既に食べ終えていたシロッカスが声を掛ける。
普段ならばヒヅキの方がシロッカスよりも少し早く食べ終わるのだが、今日はアイリスの手料理の為に、うまいうまいと泣きながらガツガツと食べていた。しかもヒヅキの倍近くも。
ヒヅキはちらりとだけ見たその光景を思い出し、内心で微妙に呆れながらも、シロッカスに応える。
シロッカスはヒヅキが自分の方に意識が向いた事を確認すると、いきなり「すまない」 と、頭を下げてきた。
それにヒヅキが驚いていると、シロッカスは心底申し訳なさそうに言葉を続ける。
「護衛依頼なのだがね、護衛の者が見つかりはしたんだが、先方のギルドから連携が取れている自分たちのギルドメンバーだけで護衛任務に当たる事が条件として出されてね。なんとか交渉したんだが、安全上の理由で受け入れられず、かといって他に当てもなく、その、時間もあまり無かった為に仕方なく依頼してしまった。先に依頼しておいて本当にすまない。違約金はちゃんと払うので、それでどうか赦してもらえないだろうか」
泣き出しそうな雰囲気で切々と語るシロッカスに、ヒヅキは別に気にしてない旨を伝える。むしろガーデン滞在中の宿まで提供してもらったのだ、文句のあろうはずがなかった。それに、依頼されたと言っても、まだ正式な書類を交わした訳ではないので、違約金なんてものさえ本当は存在していない。それでも払うというのは、シロッカスのせめてもの誠意なのだろう。
「そう言ってもらえると有難いが、本当に申し訳ない」
再び頭を下げるシロッカスに、ヒヅキは一つの提案、というよりお願いをする。
「違約金は要りませんので、今晩はこのままここに泊めてもらえませんか?」
「は?」
「駄目でしょうか?」
不意を衝かれたような間の抜けた表情を見せたシロッカスに、ヒヅキは僅かに首を傾げる。
ここに宿泊させてもらっているのは、仕事を依頼されているからついでに、という意味合いが強い。なれば、その仕事が無くなった以上、ここに居られないのが道理ではないか。
だが、外は既に夜。今放り出されるのは出来れば避けたかった故のお願いであった。
「駄目もなにも、最初から追い出すつもりはなかったが?」
しかし、シロッカスはそう言って不思議そうな顔をみせる。
ヒヅキはその事に安堵しながらも、明日には出ていく旨を伝えた。
「な、何故そうなる!?や、やはり怒っているのか!?」
それにシロッカスは動揺する。いや、シロッカスだけではなく、アイリスも同じように狼狽えていた。
「い、いえ。別にそういう訳では」
ヒヅキはそれに驚きながらも、シロッカスに自分のその考えを伝える。
それを聞き終えたシロッカスは、ほっとして口を開いた。
「なるほど、そういう事か。ならば気にしないでほしい。確かに最初は仕事を依頼した手前という部分もなかった訳ではないが、今は純粋に君を気に入っているから泊まってもらっているだけだよ。それに、もし仕事が無ければ泊まりづらいという事ならば、最後に一ヶ所だけまだ護衛の空きがある武器輸送の護衛依頼が残っているので、それを依頼するよ」
ヒヅキは驚きに喜び、感謝などの様々な感情が入り交じった声で「ありがとうございます」 とシロッカスに述べて、頭を下げた。