旅路26
現在ヒヅキが居る場所を上空から見た場合、おそらくぽっかりと穴が開いているような場所なのだろう。周囲を囲む高い壁に目を向けたヒヅキは、そんな事を思う。
見える範囲にはヒヅキ達が通って来た道以外に道はなさそうなので、完全に行き止まりである。空を飛べれば別であろうが。
そんな場所ではあるが、広さは結構ある。大人の龍が数頭やってきても、全く窮屈には感じないだろう。
しかし、一面草木が生い茂っているので、周囲の壁で判断しなければ広くは感じない。そんな場所だからか、かなり久しぶりに鳥のさえずりを聞いた気がする。あまり多くは生息していないのか、そこまで大きな音ではないが。
ヒヅキの後に続いて、英雄達も道から出てくる。それを確認した女性が、ここで少し長めに休憩を取る事を伝えた。
各自好きに休む英雄達。その普段通りの様子を見るに、英雄達にとっては周囲の景色など興味の対象外らしい。
ヒヅキは折角だからと女性に確認した後に散策に出てみる。危ない場所ではないらしいので、好きにすればいいという話だった。
無論、その隣にはフォルトゥナが当然のようにして付いてきている。
膝丈ほどの草を踏み分けて、ヒヅキは奥の方へと進んでいく。少し先に木々が生い茂る場所が在る。森というには些か規模が小さいが、鳥たちが棲むには十分な広さだろう。もしかしたら何か動物もいるかもしれない。
そんな事を考えながら森の中に入る。元々涼しげな空気が漂っていたが、森の中は更に温度が下がったような気がした。寒いというほどではないが、少し身体を動かしているぐらいがちょうどいい温度だ、
鳥のさえずりは森の奥の方から聞こえてきている。草が生えていて足下が見えにくいが、木々はほどほどに密集しているだけなので、奥までとはいかないが、数メートル先ぐらいは確認出来る。
しばらく周囲を眺めながらゆっくりと木々の中を歩いていると、ヒヅキは湖を見つける。いや、湖というよりは大きな池といったところではあるが。
何にせよ水場を見つけたヒヅキは、慎重に近づいて水の中の様子を窺ってみる。
覗いた水の中は澄んでいた。底の方に泥のような土が堆積してはいるが、水の方は綺麗なものだ。魚でもいないかと思ったが、残念ながら水草が生えている程度のようで、何かが棲み着いている様子は無い。もしかしたら泥の中になら何かいるかもしれないが。
視線を水の中から周囲へと向けてみると、大きな池の周囲は背丈の低い草が生えているぐらい。
それを確認したヒヅキは、僅かに逡巡した後、その場に防水布を敷いて腰を下ろす。丁度良いので身体でも拭いておこうと思ったのだ。
その為の準備をしてから、ヒヅキは上を脱ぐ。そして脱いだ服を見て、ついでに洗濯もしておこうと思った。
池の中に入るつもりも、池の水を使うつもりも無いので、ヒヅキは洗面器に魔力水を注ぎ、そこに布を浸して身体を拭いていく。
背中の方はフォルトゥナに任せて、上半身を拭い終える。それだけでも幾分かは気分が良くなった気がする。
そこで思い出したヒヅキは、フォルトゥナに身体を拭くかと尋ねた後、新しい布を渡す。
布を渡した後、ヒヅキは下の方も脱いでさっさと布で拭いてから、手早く着替えてから洗濯の準備をする。その合間に、お返しとフォルトゥナの背中も拭いておいた。
フォルトゥナも全身拭き終えた後、ヒヅキはフォルトゥナの服も一緒に洗濯する。可能な限り手早く洗濯を済ませると、それをフォルトゥナに頼んで乾かしてもらう。
その間に粗方片付けを済ませたヒヅキは、洗濯物の乾燥を手伝う。魔法が普通に使えるようになって、初めて役に立ったかもしれない。
洗濯物の乾燥も終えると、それらも片づけて一息つく。とはいえ、まだ休憩時間委には余裕があるが、何だか散策する気が失せてしまった。ヒヅキはどうしたものかと思案したところで、折角一行と離れたのだからと、剣に光の魔法を纏わせる練習をしてみる事にした。




