旅路24
ヒヅキはフォルトゥナの声で目を覚ます。
「う」
休憩時間がそろそろ終わりそうだというフォルトゥナの言葉にヒヅキは身を起こそうとして、身体がバキバキと鳴る。背中の筋肉も張っているようで、起き上がるのが辛かった。
やはり石の上は硬すぎたかと思うも、横になれた分、座って寝るよりかは幾分かマシだったようにも思える。それでも何か下に敷いておけばよかったかと思ったヒヅキだが、敷ける物など服ぐらいしかないだろう。それも大して量は無い。
服という存在が頭に浮かんだところで、そういえば最近は着たままだったなと思い出す。身体を拭く事も忘れていたので、次の休憩時にでも身体を拭くかと思った。
寝台から降りたところで、荷物を持ってフォルトゥナと共に外に出る。
フォルトゥナは睡眠を必要としていないので、わざわざ眠る必要はないのだが、見張りや伝達係ばかりで少し申し訳ない気分になった。もっとも、フォルトゥナ本人としてはヒヅキの役に立てて喜んでいるのだが。
ヒヅキ達が岩の家を出ると、女性は既に戻っていた。英雄達も隊列を組んで待っていたので、ヒヅキ達は足早に隊列に並ぶ。
全員が揃ったところで、特に何か言うでもなく女性は移動を開始する。休憩前まで進んでいた方向から直角に曲がって進む。
そのまましばらく進むと、地面が石から土に変わる。やや白い土ではあるが。
更に進むと、谷道に出る。左右に奇麗に層が出来ている壁が並んでいる。
道幅は三人並んで進めるかどうかといった程度。元々多くとも2列だったので、その辺りは問題ない。誰かとすれ違う事もないだろう。
遠くを見る限り、道は曲がりくねっているようで見通しが悪い。
一行は黙々と道を進む。似たような光景が続くが、誰も文句は言わない。
途中で女性が休憩を告げるが、移動出来るような場所でもないので、ヒヅキは大人しくその場に防水布を敷いて腰掛ける。次の休憩時に身体を拭こうかと思っていたが、止めておいた。代わりにフォルトゥナに寝ていてもいいと提案してみたが、必要ないと断られてしまった。
当人が必要ないと言うのであればいいかと思い、ヒヅキは魔力水と干し肉を齧る。フォルトゥナには必要ないとはいえ、一応そちらもフォルトゥナに勧めてみれば、こちらはすんなりと受け取った。
そうして簡単に食事を済ませた後、少し休んだところで移動を再開する。
移動速度はそれなり。英雄達の体調はもう問題ないが、やはり人数が多いというのは面倒なようだ。それでも十分すぎるぐらいには速いのだが。
同じ場所を延々と回っているのではないかと思える程にくねくねと曲線を描く道を進んで数日が経つと、突然視界が開ける。
「……滝?」
視界が開けた先は、足下に大きな河が流れる崖。少し先には息を吞むほどに大きな滝が在った。どれだけの水量が流れ落ちているのか、道から出るとその轟音がヒヅキの耳にも届く。
ヒヅキは現在風の結界を展開しているので、ある程度の音は遮断されているのだが、それでもはっきりと耳に届くとは、どれほどの轟音なのか。まだ距離が在るはずなのに、普通の人なら足がすくみそうなほどだろう。
しかし、そんな場所でも女性は気にせず先へと進む。先と言っても崖だが、岸壁に沿うようにして更に細い道が伸びていた。
細いと言っても、2列は無理だが1列であれば問題なく進めるぐらいの道幅はある。
フォルトゥナがヒヅキの後ろを進む形で先へと進む。滝からしぶきが飛んでいるのか道は濡れていた。
滑るような物は時折見かける小石程度なので、注意していれば問題はないだろう。
細道は結構長く続いていそうだが、途中で曲がっているので道の先は分からない。しかし、遠目に崖下に森が広がっている様子が僅かに窺えた。眼下の河もそこに流れ込んでいるのだろう。
という事は、また滝があるのかもしれない。流れも急なので、ヒヅキは改めて落ちないように気をつけながら進む事にした。




