旅路23
程なくして岩が並ぶ場所に到着する。
近くで見る岩の家はどれもとても大きく、ヒヅキは何だか自分が小さくなったような気分になる。
岩の家には窓や扉といった外からの視線を遮るような物は何も取り付けられていないので、開けられた穴から中の様子が窺いしれた。
岩の家の中は、岩を削りだした机や椅子、棚などが置いてある。机や椅子も家と一緒にそのまま削りだしたようで、床から生えているように見えた。
そんな動かせない家具を見て、不便そうだなとヒヅキは思う。しかし、岩から削り出しているようなので、固定していなくとも移動させるには重すぎて大変そうではあるが。
他には何かないだろうかと見てみるも、そういった動かせない家具以外は何も無いようだった。
一定の間隔で並べられている岩の家は、どう見ても人為的な配置である。重くて巨大な岩を運ぶ。それだけでかなりの労力を要するだろう。
女性はその岩の家に挟まれた道を進み、奥へと向かう。その途中で女性は足を止めて周囲に目をやる。
「ここで一旦休憩にします」
そう告げると、女性は近くの岩の家へと入っていった。
英雄達が各々好きに休む中、ヒヅキは気になって女性が入っていった岩の家の方へと視線を向ける。
「………………」
『追わないのですか?』
そんなヒヅキへとフォルトゥナが声を掛ける。
『そうだな……やめておこう』
ふるふると首を振ると、ヒヅキは防水布を敷いてその上に腰を下ろす。
『いいのですか?』
ヒヅキの隣に腰掛けたフォルトゥナは、壁に阻まれて外から見えなくなった女性からヒヅキの方へと視線を向ける。
『ああ。何の用事かは分からないからな』
おそらく今代の神が住まう地への道を探してだろうが、何も聞いていないのでそう決まった訳ではない。もしかしたら別の用事かもしれない。であれば、特に用も無いのに追いかけるというのは流石に躊躇われた。
それに、仮に今代の神が住まう地への道を探してだとしても、実際に道が見つからない限りは、ヒヅキにやる事は何も無い。追いかけていっても見学するだけだ。
見学は1度やっているので、あまり興味が無かった。何をやっているのか解らず、ただ眠たいだけ。前回も途中から眠っていたので、であれば追いかけずに眠っていた方がいいだろう。
そういった考えでの判断ではあるが、わざわざそこまで説明する必要も無い。フォルトゥナもどうしても追いたい訳ではなく、ヒヅキの気持ちを確かめただけでしかないのだから。
『そうですか。余計な事を申しました』
ヒヅキに追いかける気がないと解ると、フォルトゥナは申し訳なさそうにそう告げる。それと共に軽く頭を下げた。
『いや、構わないよ』
そんなフォルトゥナにちらと視線を向けたヒヅキは、直ぐに視線を前へと戻す。その後に周囲を見回し、岩の家の中で休んでもよかったなと、ふと思った。岩の家の中であれば、陽光も遮られる。
『休む場所を変える』
『畏まりました』
僅かな思考の後、ヒヅキがフォルトゥナにそう告げると、フォルトゥナはすぐさま立ち上がった。
防水布を回収した後、二人で女性が入ったのとは別の岩の家へと入っていく。
岩の家の中はかなり広かった。天井も高いので、この場所の住民達はかなり大柄な体格の持ち主だったのかもしれない。
少し奥に入ると、壁で区切られた部屋が並ぶ。その1室に岩で造られた寝台が在った。中に何かを入れるのか、寝台は厚底の箱型。
近づいて観察してみると、寝台は長さ2メートルほどで、幅は一人で眠るには十分なぐらい。高さはヒヅキの腰丈よりも下で、箱の中の部分は厚さ10センチメートルぐらいか。よく見れば隅の方に砂が僅かに残っているので、ここは砂を敷き詰めてその上で寝ていたのだろう。ふたのようなものは見当たらないので、砂を敷いてから木の板でも置いて寝たのかもしれない。
ヒヅキはそれを見て、硬いが短時間ぐらいなら座って寝るよりはマシかと考え、フォルトゥナに少し眠る事と休憩が終わったら起こしてほしい事を伝えた。




