旅路22
結局のところ、ヒヅキでは粗い造りというのが1番分かりやすい特徴という事が分かった。
「それにしても、何故こんな場所に階段が?」
ヒヅキは足下を見回してそう思う。
女性が言うには、指人族は草を食べて生きていくという。その草だが、階段の上だけではなく下の方にも十分に生えているので、わざわざ労力を割いて階段など造らずとも、どちらでも生きていけそうに思えた。それとも、それでは足りぬほどに指人族は大食いなのだろうか。しかし、食べ尽くされずに草は生えている。
そんな疑問を籠めてそう問うと、質問の意図を解した女性は広間の大木へと視線を向ける。
「どうやら元々はあの木に住み着いていたみたいですよ」
「あの木?」
女性の言葉にヒヅキは首を捻りながら顔を上げると、女性の視線を追って広間の大木に目を向けた。
「あそこに住んでいたのですか? 何か家になりそうな物は見かけませんが」
そういえば女性があの場所を眺めていたなぁと思い出すヒヅキ。もしかしたらあれは、今代の神への道を探していたのではなくて指人族でも探していたのかもしれない。
しかし、ヒヅキの言の通り、その大木には変わったところは無かった。枝の上に小さな家とか鳥の巣とか、そういった物がまるで見当たらないので、そこに指人族が住んでいたと言われても首を傾げてしまう。
「指人族は奇襲を好むので、木の中をくり貫いて木自体を家として造っている事が多いのですよ。もしくは穴の中とか」
「そうなんですか」
「指人族は小さいですからね、出入り口も小さくて済みますから。それに、指人族は他の小人族よりも器用さが低い代わりに、力が強いので。岩を削ってそこの階段を造れるのです、木ぐらいは容易でしょう」
「それは確かに」
道具があろうとも、岩を削って階段を造るのは労力を要する。魔法で造ったという可能性もあるが、造りが粗くて表面が凸凹して安定していないので、おそらく違うだろう。
であれば、木を掘るぐらいは可能だろう。そちらもかなり大変そうではあるが、可能か不可能かと問われれば可能というだけで。
「そして、あの木の中にはもう指人族は住んでいないようなので、何らかの理由であの場所からこちら側に移動したのではないかと考えています」
「その為の階段ですか?」
「おそらくですが。見た限りあまり使われていないようですし」
「今どこに居るのでしょうね」
「さぁ。そこまでは分かりませんが、太い木とか柔らかい地面とか隠れられそうな場所は気をつけた方がいいですよ。まぁ、この顔ぶれならば何かあっても軽く返り討ちでしょうが」
肩を竦めて小さく笑うと、女性は階段に背を向ける。
「さ、先へ行きましょうか」
並んで待っていた英雄達の横を通って、女性は歩いていく。女性のその言葉に、ヒヅキもその背を追いかけた。
歩きながら、ヒヅキは周囲を見回す。
足元には背丈の短い草が生えているが、そのまま真っ直ぐ進むと途中から地面が土から石に代わり、更に遠くには大きな岩がゴロゴロと転がっている。
(いや、違うか)
まだ距離があるが、転がっている大きな岩を眺めたヒヅキは、それがただの岩ではない事に気がつく。
(あれは多分家だな)
扉や窓などは付いていないが、よく見れば遠目にも穴が開いているのが確認出来た。おそらく中は空洞になっているだろうから、それはやはり家なのだろうと思う。人の気配は全くしないので放棄された場所なのだろうが、荒らされている様子はない。
しばらくして更に近づくと、やはりそこは岩を掘って造られた家なのだと分かった。
まだ距離はあるが、その家は大きな岩で造られているだけに、平屋だというのにかなり大きい。高さでいえば2階建てぐらいはありそうだ。
そんな大きな岩を何処からどうやって持ってきたのかも気なるが、ところどころ風化はみられるが、特に荒れた様子の無いその場所に、ヒヅキは何故そこを棄てたのだろうかと少し疑問に思った。




