旅路18
立ち上がった女性は、対岸の奥の方を指差す。
「ここからでは距離がありますが、あの木の向こう側に今代の神が住まう世界へと繋がっている道の候補があります。どうやら、そこからここへと魔力が供給されているようですね」
「何の為にでしょうか?」
「さぁ? 私では分かりかねますね。そもそも意味があるのかどうかすらも疑わしいですし」
「それはまぁ、確かに」
女性の話の通りであれば、魔力を供給しているのは今代の神の仕業ということになるのだろう。今代の神の行動には意味の無いモノも多いようなので、今回もそれという可能性が大いにあった。
「まぁ実際はどうであろうとも、これからそこに向かうのですがね」
現在の目的が今代の神が住まう地への道探しであるので、そこに候補が在るというのであれば、向かわない理由は無いだろう。
軽く肩をすくめるような仕草を見せた女性は、視線を周囲の木々へと向ける。
「そういう訳で、周囲の木々に高濃度の魔力が秘められているという訳です。先程も言いましたが、この湖の水に手を加えればウィンディーネのような存在が生み出されますので、周辺の木々はあれに近しい存在とも言えますね」
悪戯っぽい笑みを浮かべた女性の言葉に、ヒヅキは嫌そうな顔を浮かべる。魔物にならないにしても、ウィンディーネのような存在になる可能性があるのであれば、ヒヅキとしては今すぐここから離れたい気持ちであった。
「とにかく、周囲の木々は魔物にはなりませんよ」
「そうなのですか?」
「ええ。魔物になるにも核と言いますか、素がないですからね」
「素、ですか?」
「ええ。ほら、この湖ですよ。これは説明した通りに魔力の塊ですが、こうやって魔石ではなく水になってますし、そのおかげで周囲に拡散しないので、周囲への影響は少なくなっています。それに、ここには鉱石が無いようですし」
「つまり、魔物になる為の要素が足りていないという事ですか?」
「そういう事ですね」
「ふむ、なるほど……」
そこまで考えて、ヒヅキはふと思い至る。
「もしかして、ウィンディーネと魔物は似たような存在なのですか?」
「魔力の塊から生まれたという意味では同じでしょうね。魔物はそこに別の要素、例えば影狼達の成れの果てが関わってきたりしますが、そういった要素が無ければ周囲の木々のようになり、そこに神が関わったらウィンディーネのような存在に成るというだけですからね。まぁ、神以外でもあれのようなモノを生み出す事は可能ですが」
「なるほど。つまりは可能性のひとつという事ですか」
「そういう事ですね。分岐の先であって、基は同じです」
「そうだったのですね」
「他の亜神達も似たようなモノです」
そう言ったところで話を纏めると、女性は「休憩を終えますよ」 と言って英雄達の方へと向かう。
ヒヅキもフォルトゥナと共に英雄達の許に移動すると、隊列を組んで湖を迂回して先へと進む。疎らな木々の先には、遺跡か何かの跡のような風情のある場所であった。
周囲を見回してみると、平らな石の地面の上に整えられた四角い大きな石が大量に転がっている。少し先にそれを積み上げて何かを造っていた跡があるので、それが崩れたのだろう。
パッと見た感じ地下などはなさそうだが、崩れた石の下に在るのかもしれない。
遺っている跡の規模と周囲に転がる大きな石の数からいって、あまり大きな建造物ではなかったようではあるが。
ヒヅキにはその跡が何の跡かまでは分からないものの、何となく神殿とか祠のように見えた。
女性はその跡から少し離れた場所まで移動すると、キョロキョロと周囲を見回す。道を探し始めたのだと思うも、休憩とは言われていないので、もしかしたら別の何かを探しているのかもしれない。そうヒヅキは考えながら眺めていると、直ぐに女性はここじゃないとばかりに首を振って先へと進みだした。




