旅路16
フォルトゥナからの講義を一旦終えた後、ヒヅキは今し方受けた講義を頭の中で反芻する。まだあまり高位の魔法は行使出来ないが、それでも着実に成長している。
もっとも、ごく短距離ではあるが、ヒヅキは既に転移魔法という規格外の魔法を修得してはいるのだが。
ヒヅキが頭の中を整理したところで、荒涼とした地を抜ける。埃っぽい場所であったが、それだけだ。それほど広くもなかったので、休憩を挿まずとも通り抜けることが出来た。
荒涼とした地を抜けると、そこには大きな湖が姿を現す。それを見て、地形の変化が激しいなとヒヅキは思うも、それで不利益を被っている訳でもないので直ぐに忘れた。
湖に到着したところで、女性が一旦休憩を告げる。そこでヒヅキは気になったので湖に近づくと、湖畔から湖の様子を窺ってみる。
透明な水で満ちているそこは、湖面が陽光を反射してキラキラとしていて眩しい。そこまで深い湖ではないのか、透明度が高いから水底の様子まで確認出来る。しかし、水中には水底に水草や岩が在るだけで、何かが棲んでいそうな様子は無い。
飲み水に適しているのかどうかは知らないが、見た目が奇麗であるのは確かだ。
湖の周囲には疎らではあるが木々が生えている。青々とした葉が茂り活力に満ちているようだ。ただ、何だか妙にその木々からは気味の悪い感じが伝わってきて、ヒヅキは何故だろうかと首を捻る。
観察してみても、その木々には別段おかしなところは無い。普段であれば気にも留めないであろう木々だ。
そんなヒヅキの視線を追ったフォルトゥナは、ヒヅキが何に疑問を抱いているのかを察する。
『あの木々は濃い魔力を含んでいるようですね』
『濃い魔力?』
『はい。普通の木でも魔力を含んでいるものですが、それはそれほど多くはないので気にならないほどです。しかし、湖周辺に生えている木々はどうしてか濃い魔力を内包しているようなので、ヒヅキ様はそれが気になっておられるのではないかと』
『なるほど……言われてみれば濃い魔力を感じるね』
フォルトゥナの説明を受けたヒヅキは、木々が内包している魔力を調べてみて納得する。魔力の所在が木の中という事で、遺跡の中に居る時のような気持ち悪さはないが、それでもにじみ出るような魔力を知らず感知していたようだ。狭い範囲ではあるが、木々の周囲だけ魔力濃度が高い。
『はい。あれだけ濃いと魔物になっていてもおかしくはない気もしますが、そんな様子も無いようですね』
『ああ、確かに』
濃い魔力に晒され続けた結果、魔物に変容してしまうという場合もある。木々が内包している魔力の濃度は、その条件を十分に満たせるだけの濃さがあるような気がした。
『ああなったのはつい最近だとか、あの魔力は元々有している魔力であるとか、植物は魔物になりにくいが故に偶々まだ魔物に変容していないだとか、実はすでに魔物になってしまっているだとか色々と考えられますが、実際のところはよく分かりませんね』
何故魔物化しないのかという疑問にフォルトゥナは自身の考えを少し述べるも、結局は不明という結論しか出ない。何かしら外的要因が在るのだとしても、周囲からはそんなモノは感じられなかった。
二人して木々を眺めながら首を捻るが、分からないものは分からない。しょうがないのでヒヅキは、それについて知っていそうな相手に訊いてみる事にした。
「ちょっといいでしょうか?」
「どうかしましたか?」
英雄達から少し離れた場所で休憩していた女性にヒヅキは声を掛ける。
それに応えた女性に、ヒヅキは先程フォルトゥナと話していた内容を説明していく。それを静かに聞いていた女性は、ヒヅキの話が終わったところで湖の方へと視線を向けた。
「その原因はこの湖ですね」
「湖ですか?」
女性の言葉に首を傾げながらも、ヒヅキは湖の方へと視線を向ける。
湖は先程までと変わらずキラキラと陽光を反射していて、その眩しさにヒヅキは目を細める。そうしながらも湖を調べてみるが、特段おかしなところは無いように思えた。




