旅路15
おそらく昔は何かしらの集落だったであろうその場所だが、女性は特に気にせず進んでいく。
草を刈ると密集した石が顔を覗かせている場所もあり、足場が安定している分、外壁の向こう側の草原を進むよりは若干歩きやすい。
そうして越えてきた外壁以外の外壁に近づいていく。少しして、かなり崩れている外壁のひとつに到着する。
到着したそこは残っている部分を見るに、崩れたというよりも壊されたと言った方がいいような、中途半端な崩れ方をしていた。
その様子に、ヒヅキはスキアがここにも来たのだろうかと思ったが、どう見てもここから人が居なくなったのはかなり昔の事であるので、仮にスキアが犯人であったとしても、今の情勢とは関係のない事だろう。
その外壁も越えて先へと進む。草原はまだまだ奥まで続いているようで、果てが見えない。周囲を見回してみてもそれは同じ。
(昔はここにも何か在ったのだろうか?)
草原の真っただ中に集落を造るというのもおかしな話ではないのだろうが、それでもこんな何も無い場所に集落を築く必要性がヒヅキには解らなかった。
(普段から利用するには、水場も森も離れている。集落の中や周辺に井戸や畑が在ったとしても、こんな何も無い場所では危ないだけな気がするな)
だから滅びたのかもしれないが、当時はこの周辺にはそれだけの価値が在ったのかもしれない。もしくは、ここはそれだけ安全な地域だったとか。まぁ、争う相手も居なさそうではある。
(実際のところは分からないからな。ここを放棄した後に何かが襲ったのかもしれないし)
結局のところ、当時を知らないので推測ぐらいしか出来ない。移動中の暇つぶし程度の思考なので、本格的な調査をする気もない。
そもそもここに何が住んでいたのかもヒヅキは知らないので、思考遊びもここまでだろう。
ヒヅキはそろそろ魔法についてもう少し深く知ってもいい頃合いではないかと考え、フォルトゥナに魔法について質問してみる。
以前フォルトゥナに教えてもらった時には、基礎部分が中心であった。当時は英雄達を取り出してはいなかったので、まだヒヅキは上手く魔法が使えていなかったのだからしょうがない。いや、上手くは使えていたのだろう。ただ威力が出なかっただけで。
だが、現在は違う。邪魔をしていた英雄達を取り除いた事で、ヒヅキの魔法の威力もやっと一般的になった。後は技量次第ではあるが、その部分は英雄達による阻害の影響で磨かれていたので、既に結構な域に達していた。
であるので、今であればもう少し上の魔法も目指すことが出来るであろう。そう思い、フォルトゥナから講義を受ける。その最中、ヒヅキはふとフォルトゥナにまだその事を伝えてなかったなと思い出した。フォルトゥナと合流してからは、移動と仮眠しかしていない。
それでも何も訊く事なく魔法について講義してくれるフォルトゥナに内心で感謝しつつ、ヒヅキはそれに区切りがついたら説明しようと考えた。
だが、そんなヒヅキの考えとは裏腹に、フォルトゥナの講義は途切れる事なく続く。どうやらヒヅキは基礎部分しか習っていなかったので、教えられる事は山ほどあるようだ。魔法は長い時間研鑽され続けたものなので、それも当然なのだが。フォルトゥナの知識は驚くほど深かった。
そんな講義は休憩中でもその後も続く。二人の会話は全て遠話なので、周囲に迷惑を掛ける事はない。ヒヅキも憧れを抱いていた魔法の講義なので楽しんで聞いている。おかげで長時間でも苦痛ではなかった。
それから草原を抜けて荒涼とした場所に出てた辺りで、フォルトゥナの講義も大分落ち付いていく。しかし、それは教えることが無くなったというよりも、そろそろ何処かで区切りをつけた方がいいだろうとフォルトゥナが考えたからだろう。一気に詰め込み過ぎても効率が悪い。もっとも、それは今更の話ではあたったが。




