旅路14
現在居る草原に生えている草は柔らかな草が多いらしく、魔法で刈った後の草の上に腰を下ろしても痛くはないだろう。ただ、刈ったばかりなのでやはり汚れが気になってしまうが。
(泥よりかは遥かにマシだな)
足下を見ながら、ヒヅキはそう思う。足下を確認した限りではあるが、そこまで草から汁が出ているという事もないようだ。これならば防水布を敷いても問題はないだろう。草の先端が尖っているという事もないようだし。
ヒヅキは英雄達が休む場所から少し距離を取った場所に防水布を取り出して敷くと、その上にフォルトゥナと共に腰を下ろした。
やはり草は柔らかいようで、草の上に座しても残っていた茎が刺さるような事はない。
周囲を見回したヒヅキは、各々好きなように休んでいる面々を確認した後、フォルトゥナに少し寝るので、休憩が終わった時に起こしてくれるように頼む。
それにフォルトゥナが了承したところで、ヒヅキは岩場の時同様に座ったまま浅い眠りについた。
少しの休憩の後、フォルトゥナに起こされてヒヅキは起きる。やはり眠りが浅いので、何かがそこまで大きく変わったという事はないけれど、それでもこうして機会があれば少しずつ寝ておく事も大切だろう。
片付けを済ませたヒヅキは、女性を先頭に草原の移動を再開する。やる事は変わらないので黙々と進むと、草原に到着した時には遠くに僅かに見えるだけだった外壁が大分はっきりと見えるようになってきた。
見えてきた外壁は、周囲の草の色に似た色合いをしていた。ただ、時と共に色あせていったのか、外壁の方は周囲の草よりも色合いが白い。それでいながら、一部外壁が崩れているのが確認出来る。
外壁は石を積んで築かれているようだが、ガーデンなどの都市に築かれた防壁のように、形を整えて切り出した石を積み上げたという訳ではなく、自然の岩や石を積み上げて築いたようであった。
高さは3、4メートルほどだろうか。高いは高いが、都市部などの規模の大きな場所に築かれている外壁と比べると低いような気がする。
幅はどれぐらいだろうか。30メートルぐらいはありそうな気がするが、端の方は崩れていて正確なところは分からない。
外壁で遮られていて中の様子は見えないが、町ではなく砦という可能性もある。それともただの壁かもしれない。なんにせよ結構古いというのは理解出来た。それと共に、放置されて大分時が経っているという事も。
それからも草原を真っすぐ進み、外壁の前に到着する。
岩を積み上げて、隙間に石や砂や泥を詰め込んで安定させているその外壁は、切り出して整えられた石を積み上げた外壁とは違った雄大さを感じさせた。
そんな外壁に、ヒヅキははぁと感心した声を小さく零す。女性は足を止める事無く進み、外壁に沿うように進路を変えると、少し離れた場所に在った崩れている部分から中に入っていった。
ヒヅキ達もその後に続いて外壁を越えて中へと入る。
外壁の先も草原だった。しかし、少し周囲を観察してみると、ここが昔は建物が建っていたのだと気づかされる。建物はひとつも残っていなかったが、それでも基礎部分が草の中に埋もれていた。
ただ、そうはっきりと残っている訳ではなく、よく見れば整っている気がする部分に石が僅かに顔を覗かせている程度。本格的に掘り返して調査するならばまだしも、見回しただけではそれぐらいが限界だろう。
この場合が滅んだのか放棄されたのかは知らないが、草が飲み込んでいる様子から、大分昔に住民が居なくなっているのが窺えた。
遠くの方では外壁が四方を囲むようにして続いているのが確認出来るが、ヒヅキ達が越えてきた外壁以外は崩れ具合が酷かった。残っている部分の方が少ないのだから。
考古学者のような過去の文化に興味がある者であればその辺りも気になるかもしれないが、その辺りヒヅキはあまり気にしないので、大きく崩れているな。ぐらいの感想しか抱かなかった。




