旅路12
密林内と言っても、浅い部分なのでそこまで地面は水っぽくはないし、ヒヅキは周囲を風の結界で囲っているので湿度もあまり感じない。それでも、ほどほどにべちゃりと纏わりつくような地面の柔らかさや、周囲の木々で生している苔なんかを見て、ここは湿度が高いのだろうと感じる。
そう感じると、ヒヅキは風の結界を張っていてよかったと思った。今後も旅の中では基本的に常に風の結界を張っているのがいいのだろう。街中などの人の多いところでは判断に悩むところではあったが。
そんな事を思いつつ、ヒヅキは女性の後をついていく。
周囲には何処まで行っても木しかない。密集しているので木々の密度は高く、よくこれで木々が育つものだと感心してしまうほど。
山側には木々の合間から岩肌が覗いているも、その視界はあまりよくない。
女性は黙々と先へと進んでいるが、今から何処へ向かうのか。ヒヅキは女性の目的は把握しているが、目的地までは知らない。そこに興味がないとも言うが。
先へ先へと進んでいくと、ヒヅキはフォルトゥナから『水の音がします』 と教えられる。おそらく近くに川でも流れているのだろう。
それから更に進んでいくと、川に到着する。山から見た河とは別のようで、川幅は狭い。それでも跳んで向こう岸まで行けるというほど狭くはない。……いや、ヒヅキ達ならば可能かもしれないが。
川が見えてきたところで、女性は全員に休憩を告げる。
しかし、足下は水気を多く含んでいるうえに、木々には苔が生している。そんな場所で休憩と言っても、よほど無頓着な者でない限りは立ったままの休憩となるだろう。まぁ、何か対策があればまた別なのだろうが。
ヒヅキは防水布を持ってはいるが、それは敷けば片面が汚れるという事になる。砂や土程度であれば払えば奇麗になるものの、流石に水分を多量に含んだ泥は勘弁願いたかった。
かといって魔法だが、風の結界はそこまで万能ではない。座れば周囲は風の結界が張られても、地面と接している間にまでは効力が及ばない。
では別の魔法ではどうかといえば、可能なのだろうが、ヒヅキでは汚れた後に汚れを落とす魔法ぐらいにしか心当たりがなかった。
とはいえ、ヒヅキは立ったままの休憩でも特段不便は感じていないので問題ないが。これが立っているのも辛いほどに疲弊していれば話は違ったかもしれないが、そこまでいけば逆に汚れなどに頓着する余裕はなかっただろう。
そういう訳で、ヒヅキだけではなく英雄達も立ったまま休憩している。中には何かしらの魔法を用いて、座ったり木に寄りかかったりしている者も居るが。
フォルトゥナもヒヅキの隣で立ったまま休憩する。フォルトゥナであれば、魔法を使って汚れずに座る事も可能ではあるが、フォルトゥナとしてはヒヅキの隣で同じようにしているのが重要なのであった。ついでにフォルトゥナは疲れをほとんど感じないというのもある。
しばらくそんな感じで休憩した後、移動を再開する。誰も川に近づかなかったのは、水が必要ではないからだろう。
川は密林を少し奥の方へと向かって進むと、そこに飛び石が点々と顔を出している場所が在った。石には苔が生しているので気を付けねばならないが、川の流れ自体はそれほど勢いはないので、仮に落ちたとしても流される事はないだろう。
石に生している苔自体も疎らなので、個々人の身体能力を考慮すれば、急がなければ問題にはならなそうだ。
女性が手本を見せるように軽快に石の上を跳んで向こう岸まで移動する。それに倣ってヒヅキも危なげなく向こう岸へと移動した。
フォルトゥナはヒヅキと全く同じ場所を同じように移動して対岸に到着する。
それからも一人ずつ英雄達は石の上を跳んで対岸に渡る。中には川を軽々と飛び越える者も居た。
英雄達はそれなりに人数がいるので、川の移動だけで先程の休憩時間ほどの時間を費やした。それでも全員が無事に対岸に渡れたので、そのまま直ぐに移動を開始する。
川を渡る為にやや奥地に足を踏み入れたからか、地面の水分含有量が増しているような気がした。




