旅路10
女性はしばらく周囲を探していたが、途中で遠くの方へと視線を向けて動きを止める。
ヒヅキは女性の方に視線を向けていたが、それで見つけたのだろうかと考え、視線を女性が向けている方へと動かす。
視線の先には壁のように大きな岩が鎮座しているが、ただそれだけだった。もっとも、神の住まう地への道は別次元を開かねばならないので、ヒヅキには見えるものではない。
諦めたヒヅキが視線を女性の方に戻すと、女性は手元を薄っすらと光らせて何かをしていた。
それを見ていてもヒヅキには何をしているのかさっぱり解らなかったので、隣で一緒に休んでいるフォルトゥナに尋ねてみる。
『あれは何をしているのか分かる?』
女性の方に視線を向けたまま、ヒヅキはフォルトゥナにそう尋ねる。それにフォルトゥナはヒヅキの視線を追って女性へと視線を向けると、ヒヅキの質問の内容を理解した。
そのまま少しの間女性を眺めながら思案したフォルトゥナは、ヒヅキの方へ顔を戻す。
『完全にという訳ではありませんが、おそらく切れ目を探しているのではないかと』
『切れ目?』
『はい。もしくは継ぎ目でしょうか。何者かが空間を切り開いた跡を手探りで調べているのではないかと』
『……なるほど』
つまりは壁に触れて微妙な段差というか、隙間を見つけるような感じだろうか。そう解釈したヒヅキだが、空間でそれを行うというのは理解出来るようで理解出来なかった。それでも何をしているのかという答えには違いないので、とりあえず頷く。
『しかし、そんなモノ見つかるのだろうか?』
空間と言ってもかなり範囲は広い。女性の口振りからある程度場所は絞れているようだが、それでも容易い事とは到底ヒヅキには思えなかった。
『普通は不可能でしょう。空間が閉じて間もないか、そういった細工がなされていれば気づけるでしょうが、それを見つけるとなると至難の業です』
『ふむ。なるほど』
今代の神の事なので、フォルトゥナの言った、そういった細工というのは施されているのだろう。そのうえで、何かしらの分かりやすい目印があるのかと考えると、難しいだろう。
ヒヅキが今代の神について見聞きした所感ではあるが、今代の神は導くが最初だけといった感じが強い。最終的な部分に関しては少し細工を施して、そこで苦労させようとしているようにしか見えない。
そして、その苦労している部分を見て愉しむのだ。そういった歪んだ性格なのだろう。そう思っているヒヅキは、今代の神が何となくの場所は教えるが、そこから先は自力で探せと言っているような気がして、不快げに眉根を寄せる。その道中に細工が無ければ、ある意味神らしいと言えるのかもしれないが。
それに、女性は最初に幾つかの候補があると言っていたので、そもそもそこからして相手を惑わしているようだ。
性格が悪い。今代の神についていくら考えたところで、結局最後はその結論に達してしまうらしい。
『何かしら細工がなされているとして、フォルトゥナにそれは分かる?』
『いえ、私ではそれを感知することは出来ません』
『そうか』
まぁそれもそうかと、ヒヅキは今までの旅の事を思い出す。
一時期フォルトゥナの前で別次元を探していた時があったが、その時から別次元についてはフォルトゥナでも管轄外らしいという事は分かっていた事だ。それも今更の話である。
それで話を終え、ヒヅキは女性の作業を眺める。女性は変わらず手元を薄っすらと光らせているが、ほとんどその場に立っているだけ。それでどうやって調べているのだろうかと思うも、別次元についてはヒヅキもよく分からない。感知魔法のような感じなのだろうかと思うも、確かな事は分からない。
それから更に時間が流れる。ヒヅキは少し寝ていてもよかったかなと思ったが、後どれぐらい時間が掛かるか分からないので、判断に迷う。仮眠程度なら出来そうな気もするが、もうすぐ終わりそうな気もしている。
どうしたものかと考えた後、ヒヅキは折角フォルトゥナが居ることだしと考え、軽く眠る事にした。




