旅路8
ヒヅキがフォルトゥナから周囲へと意識を向けると、自分達の方へと視線を向けている英雄達の姿が目に映った。ヒヅキ達の様子に危険はなさそうだと判断したのか戦闘体勢は解除しているが、代わりにヒヅキ達の様子に好奇の目が注がれていた。
それを見て、まぁしょうがないかとヒヅキは思う。先程からヒヅキとフォルトゥナは会話をしているが、それは遠話を用いた方法での会話なので、周囲からは突然現れたフォルトゥナに黙って抱き着かれているようにしか見えなかっただろう。
その様子は流石に目立つと思ったものの、直ぐにどうでもいいかと思い直す。別に英雄達にどう思われようとも関係ないのだから。
女性の方に顔を向けると、もういいのかとでも問うように僅かに首を傾げられた。女性はフォルトゥナの事を知っているだけに、特に気にした様子はみられない。
ヒヅキはフォルトゥナをくっつけたまま女性の方へと移動すると、フォルトゥナから聞いた話を簡単に説明する。
「魔法道具でここまで来たようです。ウィンディーネについては知らないらしいです」
「そうですか」
女性はそれ以上訊く事もなく、少し考えるように視線を動かす。
「それでしたら彼女も戦列に加えればどうかと。折角来たのですからヒヅキと一緒の方がいいでしょうし、それに役に立ってもらえればと思います」
「そうですね」
ヒヅキは女性の言葉に頷くと、フォルトゥナの方に顔を向ける。
『そういう事だけれどいいか?』
『はい!』
ヒヅキが確認してみると、フォルトゥナは嬉しそうに笑みを浮かべた。それを見た女性は「問題ないようですね」 と頷いて英雄達の方へと顔を向ける。
「移動を再開します」
女性がそう告げると、英雄達は直ぐに元の隊列に戻っていく。ヒヅキもフォルトゥナと一緒に元の位置に戻る。流石に抱き着かれたままだと動き難いので、離れるように言って隣を歩かせる事にしたが。
程なくして隊列が整うと、女性は移動を再開する。
山道はまだ急な道になる前だったので、足下の小石に気をつければ問題ない。フォルトゥナの方も問題なさそうなので、これから先もついて来られるだろう。
フォルトゥナはヒヅキの方に視線を向けているも、また何処かに行ってしまわないかと心配げに見ているだけで、現状については何も訊いて来ない。おそらく興味が無いのだろう。
ヒヅキも何か説明しておくべきだろうかと考えてみるも、神と戦うというだけなので特に説明らしい説明もない。フォルトゥナにはその時になって敵を教えればそれでいい部分もあった。とはいえ、何処かで説明しておくつもりではあるようだが。
英雄達も最初こそ好奇の目で見てはいたが、慣れたのか移動と共に段々興味が失せたようで、今ではフォルトゥナにそういった目を向ける者は居ない。
問題が無いのであればそれでいいかとヒヅキは思うので、黙々と移動していく。
遠目に見えていた急な斜面も今では目の前ではあるが、女性はそちらには向かわずに、急な斜面の外縁を回るようにして横に逸れた。
しばらく進むと、疎らに木の生えた林のような場所に出る。生えている木はどれも背が低く、ヒヅキの背丈ほどしかない。
葉が結構生い茂っているが葉の大きさは小さく、1枚1枚が親指ほどの大きさだ。
知識に無いので何の木かなのかは知らないが、何となくその木には触らない方がいいとヒヅキは思った。
実際、女性はその木をやや大きめに避けるようにして進んでいる。木の間隔は結構空いているので、余裕を持って回避は出来るだろう。
木の横を通る際に、木に黄色い小さな実が生っているのが見えた。数は少ないが、かなり鮮やかで目を引く。
『ヒヅキ様』
『ん?』
視線を実に向けると、直ぐに隣を歩くフォルトゥナから声を掛けられた。どうしたのかと視線を向けて首を傾げると、フォルトゥナは一瞬実の方に視線を向けてから返答する。




