旅路5
そうして歩きながら色々と考えてみたものの、結局のところ背中以外に持つ場所が無かった。腰に差すと前後に伸びて邪魔になるか、地面に線を引くだけという結果になるだろう。
背面ではなく前面だと邪魔なうえに抜き難い。なので、やはり背中という結果になる。それでも、端が地面に当たらないように少々上に取り付けるので、斜めにしておかなければ剣を抜くのも大変ではあるが。
この辺りも慣れかなと思いながら、ヒヅキは剣術についてはどうするべきかと思案してみる。しかし。
(この剣で戦うかどうか分からないからな)
今までは光の剣で戦っていたので、全くの素人という訳ではないが、それでも剣術というほどに何かを確立した訳でも、何処かで剣術を習った訳でもない。
それはそれとしても、今のところ光の剣で十分な状況だ。光の剣では物足りないと思った事は無いし、そもそも光の剣と女性から預かっている剣ではどちらが優れているのか不明。もしも光の剣の方が優秀であった場合は、そもそも女性から預かっている剣の方に出番はないかもしれない。
(まぁ、物理的な攻撃も出来るようになる。というので何かしら活躍出来るかもしれないが)
それは声の主が言っていた話ではあるが、スキアを除けばもう敵は今代の神ぐらいしか残っていないと思うので、そちら次第では活躍の場もあるかもしれない。まぁ、使い手がヒヅキではやはり期待は出来ないのかもしれないが。
(それでもまぁ、最終的には砲身と組み合わせて砲弾にすればいいか)
砲身は様々なモノを加速させられるようなので、そういった方法もある。これも声の主が言っていた事ではあるが、その場合、剣は使い捨てという可能性が高いので、それはあくまで最終手段だ。
同様の事を光の剣でも可能らしいが、そちらは魔法で生み出しているだけなので、魔力が許す限りいくらでも現出する事が可能。なので、光の剣に関しては気兼ねなく使用出来るだろう。
(そちらの練習もしたいのだけれども)
声の主とそんな話をした後、ヒヅキは練習する機会を得られていない。それもしばらくの辛抱だろうが、気になっているのでどことなくうずうずしてしまう。
とはいえ、現在は山中。段々と岩場しかないような場所になってきたので、果たして練習するのに適した場所が在るのかどうか。
現在進んでいる道は、やや急な登り坂。先を見てみると、まだ先ではあるが、途中から一気に急な角度になっている場所が在る。
そこを進むのだろうかと思いながら周囲を見回してみると、ヒヅキは少し離れた場所に僅かに煌めく岩を見つけた。
(……ん?)
最初は何かしらの結晶でも混ざっているのだろうと思ったヒヅキだったが、その光は妙に白く感じた。というよりも、白一色と言った方が正確かもしれない。
その白い光を視界に捉えながら、ヒヅキはその光に見覚えがあるような気がしてくる。
何だったかと記憶を探っていると、先頭を行く女性が足を止めて思案するように光の方に目を向けているのに気がつき、ヒヅキは慌てて足を止めた。
後方を向いてみると、英雄達は既に足を止めている。それどころか戦闘体勢に移行している者も確認出来た。
(あ)
そこまで確認して、ヒヅキは光の正体を思い出す。
(あれは陣の発動時の光に似ているのか)
といっても、陣が起動した時の光の方がまだ柔らかな感じではあったが、大きな違いではないだろう。それに、おそらくあの光は陣ではないだろうし。光に何かしらの文様が浮かんでいるのは確認出来ない。
では何かと考えると、陣ではないにしても魔法の発動時の光ではあるのだろう。明度がヒヅキの知る魔法発動時よりも強い気もするが、他に思い当たらないので同じ部類のものだろう。
(後は何の魔法か、というところだが)
ヒヅキは冷静に素早く頭の中で状況を整理しつつ、女性の動向を窺う。
英雄達の中には戦闘体勢を整えている者も居るが、女性の方はそういった様子はみられない。未だに何かを考えている、というよりは思い出そうとしている感じではあるが、そこに剣呑な雰囲気は一切みられない。
であれば、ひとまず危険性はそこまで高くは無いのだろうと考えつつも、ヒヅキは念の為にいつでも光の剣を現出出来るようにだけはしておいた。




