旅路4
「時代と共に多少変化はしていますが、概ねその種族で合っていますよ」
ヒヅキの方に顔を向けた女性は、ヒヅキの説明を肯定するように頷いてそう口にする。
「そうでしたか。こんな場所にも生きている者が居るのですね」
「こんな場所だから、かもしれませんね」
「ああ、まぁ確かにそうですね」
スキアが主に襲っているのは国、つまりはそれなりに人が集まっている場所である。その基準で考えれば、こんな人里から遠く離れた場所は攻撃対象外と言えた。とはいえ相手の種族の規模にもよるのだが。
(こんな場所で大勢で暮らせるとは思えないな)
木々は生い茂っているが、規模はそれほど広くはない。なので、木々が在ると言っても恵はそれほど多くはないだろう。それで賄える口が如何ほどか、までは流石にヒヅキも分からないが。
「それでは、あれは放置でいいのですか?」
「んー、そうですね……」
クロスの話を聞く限り放置でも構わないと思いながらも、念の為に相手の種族について知っている女性に確認の為に尋ねてみると、意外な事に女性は悩む仕草を見せる。
「近くに在るであろう集落については別に放置でも構いませんが、こちらを観察している方はどうしましょうかね。直ぐに去るなら見逃そうとは思っていましたが、未だに監視しているようですし」
「気づいていたのですか?」
「見られているという事だけですが」
「そうでしたか」
自分が気づけたぐらいなのだからそうなのだろうなとヒヅキは納得する。報告するだけ無駄だったかもしれない。
「ああ、教えてくださった事には感謝していますよ。見られているのは気づいていても、相手の種族までは把握していませんでしたので」
ヒヅキの内心を察したのか、女性はそう付け加える。だが、おそらく把握していなかったというよりも、脅威ではないので気にしていなかっただけだろう。
そう思いつつも、「そうでしたか」 とヒヅキは相づちを打つ。こうして報告した以上、それはどちらだろうとどうでもいいのだから。それよりも、今はこちらを見ている者への対処についてだ。
ヒヅキから見ても相手は脅威には感じなかったが、それでも、もしかしたら何かあるのかもしれない。
「それで、どうするのですか?」
「そうですね、余計な眼は増やしたくないですから、やはり潰しておいた方がいいかもしれませんね」
「なるほど」
「ああ、処理はこちらでしますので大丈夫ですよ」
心配ないと優しげに微笑む女性。それならばこれ以上は関わる必要はないかと判断したヒヅキは「分かりました」 と告げて休んでいた場所へと戻る。
元の場所に戻って腰を落ち着けたヒヅキが木の方へと視線を向けてみると、既にそこには誰の姿もなかった。
そのまま視線を木々の中に向けて見回してみるも、特に変わったところは無い。この近辺に集落があるのかどうかは知らないが、木々の様子からはあまり人の手が加わっている感じはしなかった。
周囲を見回してみるも、そこは岩場なので岩や石以外には何も無い。周囲には英雄達が思い思いに休んでいるが、これから向かう先には高い山が聳えるだけ。
岩肌が多く、土気が少ない。登るのは大変そうだなと思ったところで、休憩が終わる。
ヒヅキは荷物を背負い直して忘れ物が無いのを確認した後、女性の後に続いて進んでいく。その道中、背嚢と一緒に背負っている剣をもう少し使いやすい持ち方に出来ないかなと思った。
現在の剣は、背嚢と身体の間で身体に紐で括りつけるようにして背負っている。長い剣なので腰に差すと邪魔になるだろう。だが、これから先はこの剣も使う事になるかもしれないので、使用する事を前提に何か別の方法を考えないといけないなと、道中ヒヅキは考えてみる事にした。移動にもそれなりに時間が掛かるので、考える時間は十分にある。




