旅路
眠りから覚めて少ししたところで、ヒヅキの目の前に女性とクロスが現れる。それに驚いたヒヅキではあったが、直ぐに転移してきたのだと思い至り「おかえりなさい」 と迎える。
その後に偽りの器はどうだったかと話を聞き、転移をする準備は問題ないらしいという事が分かった。
それから二人の休憩がてら三人で少し話をした後、休憩を終える。
女性の話では、森ももうすぐ抜けるらしい。随分時間が掛かった気がするので、その時に「広い森だったのですね」 とヒヅキが言うと、女性は小さく笑って首を横に振ると「真っ直ぐ抜けた訳ではないので」 と返事をした。
どうやら女性は森の中を彷徨うように移動していたらしい。理由を訊くと、探し物をしていたと返ってきたので、ヒヅキがそれは見つかったのかと問いを重ねると、見つかったと答えた。しかし、それ以上の答えは得られなかった。
ヒヅキもそこまで踏み込むつもりもなかったので、それが何か訊く事もしなかったが。
移動を再開して半日ほど経つと、本当に森の終わりが見えてくる。木々の隙間から見える外の景色は、ごつごつとした岩場のように見える。
程なくして外に出ると、森から一転して緑の少ない場所になった。
大小様々な石が転がり、まるで地面から生えたかのような大きな岩がいくつも確認出来た。座るのに手頃な石も多いので、休憩するのにはちょうどいい場所だろう。
空に目を向けると、日が傾いてやや暗い。夕方までまだ時間はあるだろうが、それでもそう待たずに日も落ちそうな時間。
(………………眩しい)
そんな時間ではあるが、ヒヅキは空を見上げて目を細めた。
周囲を山や森に囲まれているからか今は太陽は見えないが、それにしてはやたらと眩しい気がした。まるで暗所から明るい場所に飛び出したような目の奥に刺さるような眩しさに、ヒヅキは首を捻りながら眉根を寄せる。
(森が暗かったから?)
そう思ってみたものの、森から出る直前の森の様子は明るかった。なので、別の理由だろう。
(……そういえば、森の中では太陽を見上げてもそこまで眩しくなかったような?)
ヒヅキは少し考えて、そういえばと思い出す。無論、それでも平気で太陽を直視出来るほどではなかったが、それにしても目に刺さるような、というほどではなかった。
やはり偽りの器の影響だろうかと、ヒヅキは内心で考える。あの森を満たしていた力が何かしらの影響を及ぼしていたのだろう。そして、森を抜けた事でその影響下から抜け出したから、いきなり眩しくなったといったところか。
それも直になれるだろうから気にする必要はないかとヒヅキは考え、そういえばと展開したままだった砲身を消す。森を抜けてまだそれ程経っていなかったが、それだけでも一気に力が抜けたような気がした。やはり本格的に運用するとなると、魔力消費量が多すぎるようだ。
皆が休憩する中、ヒヅキは近くの石に腰掛けながら、前回の休憩時に声の主に教えられた魔法について思い出し、足下に置いていた荷物から剣を掴んで膝の上に載せる。
(ふむ)
いつ見ても艶やかな色の鞘を撫でた後、少しだけ鞘から剣を抜いてみる。鞘から僅かに顔を出した剣身が反射した光が、丁度ヒヅキの目に当たって思わず顔を背けた。
手首を捻って角度を少し変えた後、ヒヅキは改めて剣に目を向ける。
それはいつ見ても美しい剣身であった。鞘もだが、この剣は切れ味だけでなく芸術的価値もかなり高いように思える。おそらくこれを飾る為だけでも大金を積む者は少なくないだろう。
それでいて実用性も高いので、どれほどの業物なのだろうかと内心で少し恐々としてしまう。こんな凄い剣を持つのは身の丈に合わないとヒヅキは常々感じていた事だ。
まぁそんな剣の欠点と言えば、切れ味が良すぎる事だろう。故に、扱いには一定以上の技量が必要になってくる。ヒヅキの腕前では、振り回してもギリギリ自身を斬らないだろう程度なので、そういった意味でも恐々としていた。




