偽りの器43
女性が先導する形で移動をするが、偽りの器はとても大きいので、暗黒世界でも視界が確保出来るのであれば遠くからでも確認出来る。
「あれが偽りの器とやらですか」
遠くに浮かぶ球状の物体を確認したクロスは、興味深そうな声を出す。
「ええ。あれに攻撃すれば簡単に破壊出来るでしょう。本来の器はあの中のようですが、本来の器の方はそうそう壊れることがないので、攻撃の際に遠慮は不要かと思います」
「そうなのですか……偽りの器は脆いという話でしたが、どれぐらい脆いのですか?」
「そうですね、これぐらいの威力で壊せるでしょうか」
女性は手のひらに小さな赤色の球体を現出させる。それを見たクロスは、驚きに僅かに目を開く。
「脆いとは聞いていましたが、それほどですか……」
視線を女性が現出した球体から偽りの器の方へと向けると、クロスは考えるように口元に手を持っていく。それから少しして、口を開いた。
「…………ふむ。であれば、偽りの器の破壊には然程力を割かなくても問題なさそうですね」
「そうですね。ちょっと小突く程度で簡単に崩れていくでしょう」
「では、道の開通と破壊の瞬間を合わせる方に注力した方がよさそうですね」
「ええ。今代の神も道の開通には直ぐに気がつくでしょうし、こうして偽りの器に辿り着いた事も直に気がつくでしょう。もしかしたら既に気がついているかもしれませんし」
そうして今後の計画について話し合っている内に偽りの器に大分近づいたようで、二人は揃って足を止めた。
「ふむ。流石にここまで近づくと結構な圧を感じますね」
偽りの器へと観察するような視線を向けながら、クロスは思案する。程なくして、破壊に関しては問題ないだろうが、万全を期して自分でも調べておいた方がいいかもしれないと思い、クロスも偽りの器を調べていく。脆さについては事前に話を聞いているので、万が一も起きないように十分に注意する。
それを横目に見ながら、女性は何を言うでもなくクロスの調査が終わるのを待った。
クロスの調査が終わるのにはそれほど時間は掛からなかった。女性のように内部まで細かく調べるのではなく、あくまでも偽りの器の脆さについてだけなので、それで十分なのだろう。
偽りの器を調べ終わると、クロスは周囲の様子を記憶しようと入念に視線を向けていく。同時に場所も何処か探ってみる。こちらは女性も行っているので、どちらかが成果を出せばいいだろう。仮にどちらも成果を出せなかったとしても、転移先としての目印を残しておけば解決する。世界の中心とも言える場所なので、違う世界という事はないだろう。もっとも、違う世界でも目印さえ残しておけばほぼ捕捉は可能であるが。
一通り周囲の確認も終わったところで、クロスは女性に声を掛けて戻る事にする。
結局ここが世界の何処なのかまでは分からなかったので、何があっても問題ないように目印もバラバラに複数設置しておく。次に来る時は偽りの器を破壊する時だろう。
「では、帰りは転移が使えるか試してみますか?」
「向こうには目印を置いてませんでしたが、ここから転移が可能なので?」
「問題ありません。ヒヅキに渡してある剣が目印の代わりになりますから」
「……なるほど。では、任せます」
そういえばヒヅキが剣を持っていたかとクロスは思い出しながら、女性に転移を任せる。ここで転移が上手くいかないようであれば次の方法を考えなければならないし、転移に成功すれば、魔力の消費量からおおよその距離が割り出せる。
クロスの言葉に頷くと、女性はヒヅキ達が休憩している場所を捕捉して、クロスを連れて転移した。
そして転移は無事に行われ、二人の前に木に寄りかかって座るヒヅキの姿が映る。
ヒヅキは直ぐ近くに女性とクロスが現れて一瞬驚いたような反応をみせるも、しかし直ぐにいつもの表情に戻った。




