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「本当に申し訳ありません!」

 ヒヅキが出されたお茶を飲み終わると、アイリスが恐縮した様子で頭を下げてくる。

「い、いえ。これぐらい大丈夫ですよ。シロッカスさんに供する時はお気をつけください」

 未だに舌がヒリヒリとしているヒヅキだったが、安心させるような笑みをアイリスに向ける。

「そう、ですわね」

 ヒヅキに指摘されて、アイリスはこれが毒味もとい味見という名の試食会だった事を思い出したような反応を見せる。

「これで全てですか?」

 ヒヅキは、そんなアイリスの脇に控えているシンビに、目線だけ動かして問い掛ける。

「はい。先程のお茶で全てで御座います」

 そう言って軽く頭を下げたシンビに、ヒヅキは内心でホッとする。正直、今何か口にしても味は分からなかっただろうから。

「それでは、私は部屋に戻りますね。ごちそうさまでした。美味しかったです」

 ヒヅキは席を立ってアイリスに笑顔でそう礼を言い残すと、食堂を後にしたのだった。



 食堂を出ていく背中を見送ったアイリスは、「はぁー」 と、思わず大きなため息を吐いてしまう。

「失敗してしまいましたわ」

 途中までは上手くいっていた試食会も、最後に出した品で失敗してしまい、微妙な感じで終わってしまった。

 最後にヒヅキが美味しかったと言い残してくれたのがせめてもの救いか。

 アイリスは落ち込んだ表情で、ヒヅキが座っていた席を見つめる。

「大丈夫で御座いますよ、アイリスお嬢様」

 そんなアイリスに、シンビが優しげな声で語りかける。

「ヒヅキさまはあれぐらいで気を悪くされるような狭量なお方ではありません。現に、怒られた様子はなかったではありませんか」

「ですが……」

 アイリスは少し沈痛な面持ちになる。

 アイリス自身、それは分かっているのだが、どうしてもヒヅキにだけは嫌われたくないと思ってしまうのだ。それに、今回の料理は悪漢から助けてくれたお礼にと、ヒヅキの為に作った料理だった。

 最初はシロッカスとヒヅキに気力体力を回復して欲しいと願っての行動だったが、あんな事があってからは、ヒヅキのことばかりを考えてしまい、お礼にと料理をして今に至る。

 最初に試食ではなくお礼と言えなかったのは、使用人が居たというのもあるが、単純に気恥ずかしさがあったから。

 あの時泣いてしまってからというもの、ヒヅキの顔を見ると恥ずかしさのあまり顔が赤くなってしまいそうになっていた。その度に、アイリスは何故あの時あれほど泣いてしまったのかと困惑してしまう。ヒヅキの顔を見て安心したのは否定しないが、それにしても……。

 しかし、そのお礼も最後に失敗した。

 お礼と言わなかった事が幸いしたような気がして、アイリスの心中は複雑だった。

「今回は試食。夕食で完成品を御出しすれば宜しいかと存じます」

 シンビの気遣うような声音に、アイリスは笑みを見せる。しかしそれはどこか儚げだった。

「そうですわね。他の品は大丈夫でしたし。特に二品目は好評のようでしたから、これから手を加えれば、最後の品も美味しいと仰ってくださいますよね」

「はい」

 シンビの頷きに、アイリスはやっと視線を前に向ける。

「では早速、台所へと向かいましょうか」

 そう言って台所に向けたアイリスの足並みは、逸る気持ちを表すかのように、僅かに速足になっていた。

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