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偽りの器37

 蓄魔石とは、魔力を溜める事が可能な石である。魔力の籠っている魔石と混同されがちだが、魔石は再度魔力を充填する事が出来ない。それどころか、全てを魔石と一括りに呼称されて久しいものの、そもそも両者は別物である。

 魔石は魔力が固まって出来た結晶、もしくは何らかの理由で鉱石に魔力が溜まった物の事を指す。そういう意味では、魔物の身体に在る赤黒い石も魔石に分類されるだろう。

 魔石は魔石に込められた魔力を使い切ると、残るのは物質化した魔力の残骸のみ。鉱石の場合は消失する事もあるが、基本的に使い切りで魔力の再充填は不可能。

 そして蓄魔石の方だが、こちらは魔力が固まったり溜まったりした訳ではなく、元々魔力を蓄積可能な性質を持つ特定の鉱物の事を指す。希少ではあるが、探せば意外と見つかる物ではあった。しかし、見つかる物の大半は質があまりよくなく、大きさも指の先よりも小さな物から親指ほどの大きさぐらいばかり。

 もっとも、中には質が良い物や、こぶし大ほどの大きさの物が採掘される事もあった。そんな物はかなり稀ではあったが。

 その蓄魔石の最大の特徴は、当然魔力を蓄積出来るというモノであり、その蓄積された魔力を効率よく取り出す研究というのは、時代を幾度越えても必ずといっていいほどに行われるモノであった。

 蓄魔石に蓄積出来る魔力の量は、蓄魔石の大きさと質に依る。今回のように大量の魔力が必要という場合は、本来であれば女性の言うように大量の蓄魔石か、それかかなり大きな蓄魔石が必要になってくる。質がいいと尚良いが、質と大きさをどちらも求めると、ほぼ手に入らないだろう。

 比較的手に入りやすい質のあまり良くない小さな蓄魔石でも、必要な量となると集めるだけでも現状では難しいだろう。それをどうするつもりなのか、という女性の疑問に対してクロスが提示したのは剣。その柄頭に嵌め込まれた球体は蓄魔石とは別物のように思えるが、それでもかなりの魔力が中に封じられているのが容易に理解出来た。

 それを見た女性は、僅かに目を細める。そんな女性に、クロスは説明を行っていく。

「この剣の柄頭に嵌め込まれている球は、御覧の通りに大量の魔力を内包しています。これを利用すれば、転移での往復さえ可能でしょう」

「確かに転移の往復さえ可能な量が内包されているのが窺えますが、それは誰に使用させるおつもりで? 誰でも利用可能とは思えませんが?」

「勿論それは私が行います。この剣の持ち主ですので、この球から魔力を使用した経験も御座いますれば」

「そうですか……」

 クロスの言葉に、女性は思案するように数秒ほど目を閉じて口を閉じる。

 程なくして再び目を開けた後、女性はクロスに目を向けた。

「……他に良い案も無いようですので、それは貴方に任せます」

「御任せ下さい」

 女性の言葉に軽く頭を下げて了承するクロス。それを確認後、女性は立ち上がる。

「では、1度偽りの器の場所へ案内しましょう。直ぐに戻りますので、皆さんは引き続きここで休憩していてください」

 そう言うと、女性はクロスに目配せをする。それに頷いたクロスと共に女性は少し前に来た道を戻っていった。

 英雄達と共に残されたヒヅキは、さてどうしようかと首を捻る。休憩すると言っても、話し合いをしている間に十分休めた。かといって、魔法の練習を行う為にこの場を離れる訳にもいかない。

 誰かに言伝を頼んでおけばいいのかもしれないが、引率している女性や普段話をするクロスが居ないので、ヒヅキが交流のある相手がこの場には居ない事になる。他の英雄達は少々話し掛けづらい。

 英雄達の様子に視線を向けると、大人しく座って休んでいる者や木の幹に寄りかかっている者。近くの者と言葉を交わしている者や武器の手入れをしている者など様々であった。

(調子が悪そうな者は大分減ったな)

 普段から休憩の回数も多く、英雄達が復活してからそれなりに時間が経過しているので、存在が不安定な者は減ったという事だろう。このままいけば、数日中には不調な者は居なくなるだろう。

 一通り英雄達の様子を確認したヒヅキは、折角だからと近くの木の根元に移動して腰を下ろす。

(軽く寝ておくか)

 ヒヅキは木の幹に背を預けて目を瞑る。寝ると言っても周囲に居るのは大して交流の無い相手ばかりなので、ほとんど目を瞑っているだけに等しいほど眠りは浅い。なので、もしも誰かが近づいてきても直ぐに起きられるだろう。

 そうして浅い眠りについたヒヅキだったが、気づけば薄い黒色の世界に立っていた。

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