偽りの器33
色々と思案しながらしばらく考えた後、ヒヅキは自身の考えにおかしなところは無いと結論付ける。ただ、もしもヒヅキの考えが正しかろうとも、それでこの場で偽りの器を破壊したとしても、今代の神から奪える力はそう多くはないだろう。今代の神が力を奪われたと気づいた瞬間には繋がりを絶つだろうから。
どちらにせよ、ヒヅキ達の被る損害の方が大きいという結果にしかならないようだと、ヒヅキは僅かに肩を竦める。
(ま、そう上手くはいかないか)
この程度で今代の神の弱体化が成功するのであれば、既に今代の神は消滅している事だろう。ヒヅキは小さく頭を振ると、その思考を止める。
(今考えてもしょうがないな。これに関しては考えるにしても、女性に相談しながらがいいだろう)
ヒヅキは今代の神について自分よりも遥かに詳しい女性の意見を聞きながらの方が有意義だとして、視線を周囲へと向けていく。
「……………………」
相変わらず器以外は真っ暗で何も見えない。近くに居るはずの女性すら確認出来ない暗闇は、おそらく周囲の力によるもの。
(そもそもこれは何なのだろうか?)
魔力とは似て非なる何か。現在は濃度が高い為に魔法の発現すらままならない。器より発せられているらしいが、もしかしたら力そのものなのだろうかと、ヒヅキは内心で首を捻った。しかし、貴重な力をここまで駄々洩れにしていいとも思えないが。そう思えば、別のモノという可能性もあるだろう。
そんな事をヒヅキが考えていると器の調査が終わったようで、女性がヒヅキに声を掛ける。
「終わりましたよ」
「どうでしたか? 壊せそうですか?」
「ええ。思ったよりも脆いようで、少し大きな魔法を中てればそれで壊せそうでした。これでしたら、誰であろうと破壊は出来るでしょう」
「そうでしたか」
どうやらヒヅキの予想は当たっていたようで、女性の言葉にヒヅキは頷きながら、やはり今代の神は自分が居ない間に壊れるようにしたかったのだろうかと考える。そうなると、繋がり自体も予想通りに存在しても直ぐに切断出来るようになっているのかもしれない。
とりあえずそれは横に措き、調査が終わったのであれば、次は神への道を繋げた際にどうやってこれを破壊するかを考えなければならないだろう。破壊であれば誰でも可能なようだし。
「調べるものは調べられたので、今回はここら辺で戻るとしましょう。ここに長居してもいい事はないでしょうから」
「そうですね」
ヒヅキが同意すると、女性はヒヅキの腕を引いてきた道を戻っていく。
しばらく暗闇の中を女性が引く腕を頼りに歩くと、女性から「そろそろ転移します」 と声を掛けられる。
その言葉にヒヅキは内心で身構えながら、女性と共に転移した。
転移する時の内側から浮遊するような何とも言えない感覚に苛まれながらも、ヒヅキの視界が真っ暗闇の世界から薄暗い世界に切り替わる。
周囲は日が暮れて間もないような不安にさせる暗さではあるが、それでも全く何も見えなかった先程の場所よりかは遥かにマシな周囲の様子に、ヒヅキは思わず小さく安堵の息を吐き出していた。思っていた以上に、真っ暗闇の世界というのは精神を消耗させていたらしい。その事に気がつくと、ヒヅキはそっと苦笑を漏らす。
「そういえば」
偽りの器が在る暗闇の世界へと転移する為の岩の前から移動しながら、ヒヅキは前を歩く女性に声を掛ける。
「英雄の中にあの暗い世界で視界を確保出来る者は居るのでしょうか? それとも視界を確保出来ない方が少ないのでしょうか?」
理由は分からないが、ヒヅキではあの世界で視界を確保する事が出来なかった。しかし、女性は問題なく視界を確保していたので、英雄達の方はどうなのだろうかと気になった。もしも視界を確保出来ないのであれば、器の破壊は女性に任すしかないかもしれない。
「……おそらくですが、数名は問題ないかと」
「そうですか。では、もしも器を破壊する場合は、その中から選んだ方がいいですね」
「そうですね。後は移動手段か連絡手段ですが……まぁ、それも合流してから考えましょう」
女性は一瞬思案するように僅かに首を傾げたものの、今は英雄達と合流する事を急ぐことにしたようだ。それにヒヅキも同意を返した。




