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「どうぞ」

 次に目の前に置かれた皿に盛られていたのは、肉を潰して、捏ねて、成形して、焼いたものだった。

「潰した肉と一緒に、細かく刻んだ薬草が混ぜてあります」

 目の前に皿を置きながらアイリスにそう説明される。

 拳大より一回り近く大きな楕円形に成形された肉には、適度に焦げ目がついていて、その肉には赤茶色のとろみのあるソースがかけられていた。

 立ち上る香りは、ソースの酸味を感じさせる芳ばしさと、肉の濃厚な味を想像させるねっとりとした脂の匂い。その中に微かに青臭さのようなものが感じられたが、食欲をそそる香りに紛れて気にはならなかった。

 ヒヅキは、皿と一緒に用意されたナイフとフォークを使い、楕円形の肉の端を食べやすい大きさに切り分ける。

 切り口から少し溢れた肉汁が、更に食欲を促してくる。

 切り分けた肉をフォークに刺して口元に運ぶと、ソースの酸味の中に華やかな香りが混ざっている事に気がついた。

 果物でも使っているのかと思いながら肉を食べた瞬間、口腔内に肉の脂が染み渡り、どばっと唾液が分泌される。

 そのまま口内の肉を噛むと、弾力はあるが柔らかく、中に潜んでいた肉汁が一気に溢れ出してくる。その肉汁の誘惑は、食べているのにお腹が空いてくるような錯覚を感じさせられる程だった。

 ヒヅキは初めて味わうその柔らかな肉を記憶に刻み付けるかのようにしっかりと噛み締めながら味わって食べる。それでも自然と食べる速さが上がってしまい、次々と切り分けられては口に運ばれた料理は、あっという間に無くなってしまった。

 薬草の苦味は良い隠し味となっていて、気になるどころか、もっともっとと手が動いてしまった要因の一つになっていた。

 アイリスはそんなヒヅキの様子に、感想を聞くまでもなく嬉しそうに笑みを深めると、料理が無くなった皿を下げて、シンビが次に用意した皿をヒヅキの前に差し出す。

 ヒヅキはその料理の前に先程の肉料理の感想を簡単にアイリスに伝えて、目の前の皿に向き合う。

 三品目は、小麦粉を溶いたものに薬草を混ぜて焼き固めたものだった。

 手のひらサイズのそれは緑色をしていて、濃い色をした薬草の姿がちらほら確認出来る。

 その上には粘度の高い真っ赤なソースがたっぷりと塗られていた。

 それを、ヒヅキはフォークとナイフを器用に使い一口サイズに切り分けると、口に運ぶ。

 口に近づけると、ソースから酸味の強い香りが漂ってくる。

 そのまま口にして咀嚼すると、触感はモチモチとしていた。味は多少苦味があるものの、それをまともに感じる前に、痺れるような辛さが味覚を襲う。

「ッ!!」

 その辛さに、ヒヅキは若干涙目になる。

 何とかそれを細かく噛んで飲み下すと、ヒヅキはひとつ息を吐き出した。

「申し訳ありません。もう少しソースを減らさないといけませんね。大丈夫でしたか?」

 アイリスは心配そうに声を掛けると、ヒヅキの目の前にお茶を置く。

「ありがとうございます」

 礼を言って、ヒヅキは生温いそのお茶を飲む。

 飲みやすいように冷ましていたのだろうが、辛さにやられた舌にはまだ冷えていてもいいぐらいであった。一時的に味覚が麻痺していて、味の方はよくわからなかったが、おそらく薬草茶なのだろう、ヒヅキは微かに薬草の苦味を感じた……ような気がした。

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