偽りの器30
それはそれとして、ヒヅキは女性に現在調べている魔法について尋ねてみる。遠方まで魔法を発現しているというのも驚きではあるが、それは相手が女性なので気にしない事にしている。
「その探査方法はどうやっているのですか?」
魔力の糸を飛ばしているのは分かるのだが、それを飛ばす際に使用した魔法や器に魔力の糸を張り巡らせた方法。そういった事を含めて問うと、女性は器の方に視線を向けたまま口を開く。
「ヒヅキは魔力の糸を伸ばす事は出来ますか?」
「魔法道具内の探査程度でしたらですが」
「それを外へは?」
「不可能ではないとは思いますが、まともにやった事はないですね」
「そうですか」
ヒヅキの返答に、女性は一瞬考えるように間を置く。
「まぁ理解しているのでしたら大丈夫でしょうが、その魔力の糸を魔法にくっ付けるのはそう難しい事ではありません。自身で構築した魔法でしたら質は同じですから」
「そうですね。その辺りは理解出来ます」
魔法と魔法をくっ付けるとなると話は違ってくるのだろうが、魔法に魔力の糸をくっ付ける程度であれば、やったことがなくともヒヅキでも出来るだろう。元が同質のものなので、魔法を問題なく構築出来るのであれば然程難しい技術ではない。
「後は魔力の糸をくっ付けた魔法を飛ばすだけです。そのまま対象を攻撃してしまわないように威力を調節するのは技術が必要ですが、ヒヅキなら少し練習すればすぐに身につくでしょう」
「なるほど。それで、先程の魔法は?」
そのまま魔力の糸を伸ばす方法に話が移りそうだったので、ヒヅキはその前に魔法について問い掛ける。魔力の糸を伸ばす方も気なるが、見た事もない魔法というのも興味を惹かれる。
「あれは半魔法とでも言えばいいですかね。魔法と魔力の中間のような魔法ですね」
「半魔法ですか?」
「ええ。魔法のように存在を固定させて飛翔させ、魔力の糸のように変形させられる柔軟性を合わせたとでも言いましょうか」
「それで半魔法ですか?」
「ええ。魔法のように確固とした形はなく、魔力のように無形ではない。そうですね……樹液とか蜂蜜のような存在でしょうか。おかげで吸着性という特性が現れて面白いですよ」
「ああ、なるほど。それで」
半魔法が器の表面にへばりつくように拡がった瞬間まではヒヅキの目で確認は出来なかったが、それでも魔力の糸がそのまま器に付着したのと、半魔法が消滅しなかったのはヒヅキにも分かった。半魔法に関しては辛うじてではあるが。
その為、今の女性の説明でヒヅキはその辺りの事をある程度は理解した。
「そうして魔力の糸を対象まで届かせたところで、魔力の糸を伸ばしていくのです。これに関しては、最初から魔力の糸に込める魔力を多めにしておくのは当然ですが、それである程度糸を伸ばせたところで、半魔法の魔力を取り込み力とします。それでも足りないようでしたら、ここから糸を通して魔力を供給すればいいだけですがね」
簡単そうに女性はそう説明するが、最初の魔力を多めに込めるのはまだしも、他のふたつに関してはヒヅキでも出来ないだろう。練習すれば自身の魔法であれば遠距離でも魔力に返還出来るようになるかもしないが、それでも現在のような濃厚な力に満たされている環境で遠方に糸伝いとはいえ魔力を送るなど出来るとは到底思えなかった。
(まぁ、それを言ったら半魔法を構築する段階からほぼ不可能なのだが。ましてそれを遠方に届けるなど……)
ヒヅキは女性の説明に頷きながら耳を傾けるも、内心ではそう思っていた。それぐらいにはあり得ない事を女性は平然と行っている。
だが、それに関しては女性だからと深く考える事を放棄して、ヒヅキは女性からの説明をしっかりと聞いたのだった。この空間を出たら練習してみようかなと思いながら。




