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偽りの器29

「何か分かりましたか?」

 立ち止まったところで、ヒヅキは女性に問い掛ける。器や周囲の見た目に変化がまるでないので、ヒヅキには器を1周したのかどうかすら分からない。

 なので、器に何か気になる点があったかどうかヒヅキには何も分からなかった。途中から飽きて取り出した干し肉の味に集中していたというのもあるが、たとえ器に集中していたとしても結果は変わらなかっただろう。

「どうやらあの器は全て一定になるように創られているようですね。なので、どの場所から攻撃しても結果は同じでしょう」

「それは大丈夫なのですか?」

「強度の方はまではまだ分かりません。上部の方も確認してみたいですが……多分結果は同じでしょう」

 器の上部の確認は大変なようで、女性は一瞬思案げに目を逸らすと、そう口にする。偽の器の強度次第では上部も調べる事になるのだろうが。

 女性は少し口を閉じると、何事か考えた後に器に目を向ける。

「とりあえず強度を調べてみない事には始まりませんね」

「大丈夫でしょうか?」

「攻撃することによって何事かの変化が生じる可能性は十分考えられますが、かといって、どれほどの強度があるのか分からなければ破壊する際に困りますからね」

「それはまぁ、そうなのですが」

「とはいえ、ヒヅキの懸念も理解出来ます。勢いあまって偽りの器を破壊してしまうという事態になっては大変ですので、攻撃すると言いましても、あくまで調査の為に魔力を伸ばすだけですよ」

 ヒヅキを安心させるようにか、優しげな声音で女性はそう告げる。

 ここで偽りの器を破壊してしまうと、神ではなく世界の方が危うくなってしまう。それに、たとえ破壊までいかずとも、攻撃したことによって器の方が警戒態勢にでもなられたら面倒な事になるだろう。

 そういった事を心配していたヒヅキだったが、その女性の説明に、それならば問題ないかと安堵する。流石に女性がそこまで考え無しのはずもなかった。

 女性は器へと向けて魔力の糸を付けた小さな魔法を放つ。周囲の力が濃い影響で感知系の魔法の感度が非常に悪いので、直接魔力を繋げて調べる事にしたのだろう。

 魔法は器目掛けて飛んでいく。意外にも器周辺には結界などの防御魔法が何も展開されていなかったようで、魔法は何にも遮られる事なく器に到着する。

 女性が放った魔法は攻撃魔法ではないようで、器に接触すると器の表面にへばりついて静止する。まるで接着剤のようなその魔法の中から、女性が伸ばしている魔力の糸が器へと伸びていく。

 もしもその様子を視認する事が出来たならば、菌糸のようにみえたかもしれない。

 無数に枝分かれしては器の表面を覆っていく細い魔力の糸。女性はそれを介して器の様子を探っていく。

「んー、あまり深くは探れないようですね」

「そうなのですか?」

「表層は大丈夫なのですが、どうやら少し器の内部に侵入するだけで力の濃度が一気に上昇するようで、伸ばした魔力程度では勝てないみたいで侵入させてもらえませんね」

「なるほど」

「まぁ、表層の直ぐ下から力が溜められているのが分かったので、調べられる表層を破壊可能かどうかが分かれば問題なさそうですが」

 女性は内部が調べられないのを気にする事なく、調べられる部分をしっかりと調べていく。

 その間ヒヅキはやる事も無いので、周辺を調べられないか挑戦してみる。魔法の構築が出来るかどうかも試してみた。

 何度も何度も挑戦してみた結果、周辺を調べるのは不可能だった。どう足掻いてみても、1メートルほど離れた場所までが限界。それも大分頑張ってなので、常時ともなると無理そうだった。

 魔法の構築も難しく、かなり無理して指先程の小さな魔法が構築出来るぐらい。ただし、光の魔法に関しては例外らしい。それと、女性が組み込んだ魔法道具か。

 その事を魔法道具を作った当人である女性に質問してみると、この周辺は力の濃度が高い為に魔力が思った通りには機能しないらしく、魔法の構築は魔力がほとんど機能しない影響で今まで通りには構築出来ないのだとか。その代り魔法道具は所持者の魔力を糧として、内部で陣によって構築まで済むので、外に出た時には魔法として展開されるから問題ないらしい。ただし、普通に起動しているように見えて、弱体化はしているから注意するようにと言われた。

 具体的には、結界を維持する為に消費する魔力量が増えているらしく、今まで通りの感覚で運用していると直ぐに魔力が枯渇してしまうという話であった。

 それを聞いたヒヅキが風の結界の様子を確認してみたところ、確かに女性の説明通りの事態になっているのが確認出来た。増えた消費量は元々の1割にも満たないが、それでも継続して消費し続けるとなると、気づいた時には手遅れになっている可能性もあるだろう。その事を理解したヒヅキは、これはある意味毒のようなものだと思ったのだった。

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