表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1175/1509

偽りの器27

 それから更に先へ進んだところで、女性が足を止める。

「着いたのですか?」

 周囲は相変わらずの闇ではあるが、女性が足を止めたという事は、何かが起きたか目的地に到着したかなのだろう。そして、女性に焦ったような様子はみられないので、おそらく目的地に到着したのだろうと考えてヒヅキは女性に問うた。

「ええ。私も実物を見た事が無いのでおそらく、ですが」

 女性の肯定の言葉に、ヒヅキは周囲を見回してみる。しかし、見渡す範囲には闇が広がっているだけで何も確認出来ない。だが、もしかしたら普通ではみえないという可能性もあるだろう。何せ器とは力の集まりなのだから。

「目の前に在るのが分かりませんか?」

 ヒヅキの耳に前方から女性の声が届くが、どれだけ見てみても、ヒヅキではその女性すら視認出来ない。腕を掴まれていなければ、直ぐ近くに女性が居る事さえ気がつかなかっただろう。

「……分かりませんね」

 目を細めてみたりするも、そんな事で分かる訳もない。周囲の力の濃度もかなり高くなってきたので、そちらで察知するのは不可能だろう。まるで世界を1色で塗りつぶされたかのようで何も解らない。

 不甲斐ないような声音でのヒヅキの返答に、女性は少し考えてヒヅキの腕を引く。

「では、もう少し近づいてみますか。もしかしたらそれで分かるかもしれません」

 そう言って歩き出す女性。そうなると、ヒヅキはそのまま一緒に移動するしかなくなる。

 女性に腕を引かれて移動していく。といっても、10数歩移動したところで足を止める事になったが。

「あ」

 ヒヅキがそう零したところで、女性は足を止めてヒヅキに声を掛ける。

「見えましたか?」

「は、はい。紫色の球体ですよね?」

「ええ、そうです」

 暗い紫色をした毒々しい見た目の球体。その中に、仄かに明かりを放つ液体のようなモノが揺れている気がする。そんな球体が遠い空の上に浮いていた。

 その球体の大きさはどれほどか。暗闇の中なので正確には分からないが、ヒヅキにはかなり遠い場所に浮いているような気がした。それでいながら城のような大きさなのだから、間近で見ると全容が分からなかっただろう。

「あれが器ですか?」

「おそらくですが。ただ、ヒヅキの話を聞く限りあれは偽りの器で、本当の器はあの中に在ると思うのですよ」

「そういう話でしたね。という事は、完全に本来の器を飲み込んでいるという事ですか」

「そう推測出来ます」

 ヒヅキも女性も器を見るのは初めてなので、実際にどうかは分からない。それでも、器の縁を拡げただけ、とかそういった感じではないのだろう。外観は完全に同一の何かで構成されているように思えた。

 ただ、器を偽装して世界を騙しているので、もしかしたらヒヅキ達を騙すぐらいは容易いという可能性もあるが。もっとも、本当の器はそう簡単には壊れないらしいので、破壊の為に巻き込んで攻撃しても問題はないだろう。

 後はあれが本当に器かどうかだ。今回は様子見なので壊すつもりはないが、それでも真偽のほどは調べておきたい。

「それで、あれが器なのかどうかをどうやって調べるのですか?」

 ヒヅキの問いに、女性は視線を球体に向けたまま顎に手を置き、難しそうな表情で思案する。

「他にあんな感じの何かは存在しないので?」

「付近にはないですね。なので、あれが器で間違いないとは思うのですが……」

 うんと首を傾げ思案する女性。ヒヅキも真偽のほどが分かる方法はないかと思案するが、明確な答えは出そうもなかった

 声の主に訊いてみようかとも考えるが、そう都合よく出てきてくれるか分からない。それに、偽りの器について話したばかりなので、何か手伝える事はないかとヒヅキの眼を通して現在の様子を見ているかもしれない、

 なんにせよ、ヒヅキではそれが全く分からないので、困ってしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ