偽りの器24
どうやらそれはヒヅキだけではないようで、英雄達も同じ方角へと顔を向けた状態で休憩している。ただ、休めている者はほとんど居ないようで、緊張した面持ちで立ったまま休憩している者が多くみられた。
ヒヅキもその一人で、近くの木に背を預けてはいるが、表情は硬い。
そんな中でも普段通りに休憩しているのは女性ぐらいだろう。地面の上に出てきている、太く上部が比較的平らな木の根の上に優雅に腰掛け瞑想している。
そのまま少しして、女性は先の様子を調べてくるので英雄達に引き続き休憩しておくように告げてから、ヒヅキと共に力の発生元だと思われる方向へと進んでいく。
それに続きながら、ヒヅキは少し進んだところで周囲に目を向ける。
「また随分とおどろおどろしい感じになってきていますね」
器への道が在ると思しき方向へと進んでいくと、周囲の状況が変化していく。
英雄達を置いてきた辺りではまだ明るかったはずの森の中はやや暗くなり、薄くだが霧も出てきた。周囲の木々も葉は枯れているのが目立ち始め、枝や幹は奇妙な感じでねじ曲がり、それが今にも動き出しそうな雰囲気を醸している。
「それだけ力が濃くなったという事でしょう。中心地に近づいている証拠とも言えますね」
「そうですね」
ヒヅキは頷きながら、女性とはぐれないように気をつける。薄くとはいえ靄が出てき始めているので、離れてしまうと見失ってしまうだろう。
現在ヒヅキは周囲に風の結界を張り、その中で砲身を複数本現出させているので、あまりにも力が濃すぎる現在の場所でも何とかやっていけた。それでも森に入った当初のような纏わりつくような不快感は覚えていたが。
(砲身の出力でも上げておこう)
普段であれば魔力の消耗が激しいので出力を抑えた状態で使用するのだが、現状ではそれをすると前へと進めなくなってしまう可能性が高いので、逆に砲身の出力を上げていく。
より一層輝きが増す砲身だが、ヒヅキ以外には見えないので問題ない。
(それにしても……)
ヒヅキはその砲身を横目に考える。
(この周囲の力は似ているが正確には魔力ではないという話だったが、しかし、こうして風の結界である程度は防げるし、こうやって砲身を現出させていると風の結界内部の力の濃度が確実に下がっている。どういう事だろうか? 違うとはいえ似ているから魔力としても使用出来るということだろうか?)
実際にヒヅキが疑問に抱いている通りの結果が出ているので、ヒヅキは疑問に思いながらも、やはり魔力としても使用可能なのだろうと結論付けた。
しかし実際は、風の結界は周囲と空間を隔てているので、多少は力も防げているというだけ。完全に防げていない以上、あまり効果が無いと言えた。
それでもヒヅキ周辺の力が薄いのは、砲身というよりも光の魔法が力を取り込んでいるから。
光の魔法は特殊な魔法で、魔力でも問題なく現出出来るのだが、本来の力を発揮させるには、むしろ器から発せられている世界の根源に近い力の方が最適なのであった。しかし、ヒヅキがそれを知っているはずもない。
元々強大な力を有している魔法なだけに、出力が多少上がったところで気づく事もなかった。それに、別件で光の魔法の威力が上がっていたのも気づかない原因でもある。
もしも気づいていたならば、光の魔法を使いこなすのに1歩前進していたかもしれないというのに。
そんな事になっているとは露知らず、ヒヅキは女性の後に続いて更に森の奥へと進む。そして程なくして、目的の場所だと思われる場所に到着した。
そこは周囲の木と木の間隔よりも木が1本分多めに間引かれたような場所で、その中心にヒヅキの身長ほどの岩が鎮座していた。しかし、道となりそうな場所は他にはない。
だが周囲を調べてみると、力が発せられているのは間違いなくその岩からであるのが分かった。




