偽りの器23
考えても仕方がないかと頭を切り替えると、ヒヅキは引き続き周囲の魔力の濃淡を調べていく。
そうしてヒヅキが周囲の魔力を調べている間にも、女性の先導で森の奥深くまで移動する一行。
明るくなってしばらく歩いたところで休憩を挿み、また進む。
その繰り返しで数日が経ち、ヒヅキにも魔力の濃淡がある程度細かく理解出来るようになった頃、女性は一旦休憩を告げると、ヒヅキを呼んで話し合いの場を設ける。
「おそらくではありますが、少し先にこの森に満ちている力の中心地があります」
「そこが目的の場所なのでしょうか?」
「確証はありませんが、明らかにそこから流れてきている力が周囲よりも濃いので、その可能性は極めて高いかと」
「なるほど。 ……確かにそちら方面だけ格段に濃い感じですね。何か敵性生物は確認出来ますか?」
「いえ。そもそも私達以外には生き物は存在していないようですね」
「まぁ、これだけ息苦しければそれもしょうがないですね」
「ええ。ここは生き物が生きていくには苛酷すぎる環境でしょう」
常に纏わりついてくる力に耐えられるだけの存在でなければ生きていく事が出来ない環境。それだけの条件でも生息出来る数は少ないというのに、そんな環境故に周囲には生き物が居ないので、たとえここに適応出来ても食べる物がなければ生きてはいけない。
木の実や果実は少しはあるのだが、それらは力に中てられすぎていて、ヒヅキでも食べれば毒になりかねない代物と化している。木の方も一部変化し始めているのが確認出来るが、器への道がこの辺りに出現してそれほど経っていないのか、芯までこの力がしみ込んでいるような木は確認出来なかった。ただそれも時間の問題だろう。
そんな訳で草食性や雑食性であろうとも、ここでは食べ物がろくに調達出来ないという事になる。常に力に纏わりつかれる不快感に、食料の乏しい環境、そんな場所に住み着こうなんて物好きな動物は存在していないのは当然と言えた。
むしろ魔物ですらこんな場所は願い下げだろう。この力が魔力であればまた話は違ったかもしれないが、これは魔力に似て非なる力らしいので。
「では、罠に気をつければ問題なさそうですね」
「そうですね。しかし、遺跡での魔物のように、中には適応した生物も存在するかもしれません。なので、それでも決して油断なさいませんように」
「勿論です」
女性の忠告にしっかりと頷くヒヅキ。何も居ないと言っても罠には気をつけなければならないので、周辺の警戒は怠れない。
「さて、それでこれから休憩を終えた後にそちらへと向かうのですが、英雄達は森の中に待たせておいた方がいいですか?」
「道やその先がどうなっているのか分かりませんので、あまり大人数では向かわない方がいいかもしれませんね」
「そうですね。では、私とヒヅキだけでいいでしょう。無いとは思いますが、英雄達に余計な事をされても困りますので」
「それでいいかと」
今回の目的は、あくまでも偽りの器の確認だけで破壊ではない。なので人数は必要ないし、不確定要素も出来るだけ排除しておくべきだろう。そう判断した女性の案に、ヒヅキも賛同する。
後は破壊の方法も考えないといけないが、とりあえず今は偽りの器の存在を確認する方が先であろう。
ヒヅキとの話し合いを終えると、女性は休憩を終える。英雄達はここに置いていってもよかったが、まだ少し距離があるので移動しておくことにした。
それからまたしばらく歩いたところで、女性は全員に休憩を告げる。そこまでくれば濃淡がどうのと言わなくとも、少し先に得体の知れない何かが存在しているのを肌で感じて、ヒヅキの背筋にぞわっとして悪寒が走り、生きた心地がしなかった。




