偽りの器22
ヒヅキがその事を女性に伝えると、女性はどういう意味かとでも言うように僅かに首を傾げる。
「それが魔力の流れですよ?」
「そうなのですか?」
その女性の返答に、ヒヅキは怪訝そうな声を出す。魔力の濃淡ぐらいしか解らなかったとちゃんと伝えたのだが、今の女性の返答を聞く限り、それが魔力の流れであるらしい。
「ええ。魔力は濃度の濃い場所から薄い場所へと流れていきますので、それにより流れが生じます。今回の場合ですと発生源へと向かう事になるので、魔力のより濃い方向を目指せば辿り着けるでしょう」
「ふむ。なるほど」
女性の説明に頷いたヒヅキは、周囲の魔力へと意識を向けてみる。そうすることで魔力の濃淡は解るのだが、より濃度の濃い方へと言われても細かな違いはイマイチ分からない。解るのは、あっちよりはこっちの方が魔力が濃いかな? ぐらいなもの。
「広い範囲で確認すると解りやすいですよ。まぁそれで解るのは大雑把な位置程度なので、大まかな指針になるぐらいではありますが」
「なるほど」
ヒヅキは頷くと、女性の言葉に従い感知魔法を使用する要領で広範囲の魔力を調べてみる。そうすると、先程よりははっきりと魔力の濃淡が解るようになった。といっても、僅かな差ではあったので注意深く観察する必要があるのは同じではあったが。
それでもその僅かな差が重要で、女性の言う通りに大まかにではあるが、どの方角の魔力濃度が濃いか解るようになった。もっとも、それも右側と左側で濃さが違う程度のかなり範囲の広い判断ではあるし、周囲の濃度も一定ではない。
「あっち方面の方が全体的に濃い感じですか?」
ヒヅキは身体の向きを動かすと、正面を指差す。といっても、方向としては正面のほぼ180度全てを指しているのだが。
「そうですね。向こう方面を目指して行けば何かしら得られるかもしれません」
女性はヒヅキが向いた方角に顔を向けると、問題ないとばかりに大きく頷いた。その方向に進んでいけば、また何処かの地点で濃度が変わっていくだろう。
「それで、お話というのは以上ですか?」
「はい。聞いて下さりありがとうございました」
「いえ、こちらの方こそ貴重な情報をありがとうございます」
ヒヅキが頭を下げると、女性も頭を下げる。その後にヒヅキは英雄達の方へと戻る。といっても、ヒヅキは移動の際に女性のすぐ後ろを進んでいるで、ちょっと歩いただけで直ぐに自分の位置に到着したが。
ヒヅキが隊列に戻ると、それに気づいた英雄達が休憩の終わりを悟り、ゆっくりと立ち上がって隊列を整え始める。
そうしてある程度隊列が整ったところで、女性が皆の前に立った。
「次は向こう側へと進んでいきます。遅れないように気をつけて下さい」
進行方向を指差した後、女性は1度英雄達を見回した後に歩みを再開させた。
そうして森の中を進みながら、ヒヅキは周囲の魔力濃度を引き続き調べていく。濃度が濃い方向の魔力が全て濃い訳ではなく、そこにもそこで魔力の濃淡が存在していた。なので、そういった部分に惑わされないように気をつけながら調べていく。慣れさえすればこの辺りも問題なくこなせそうだなと思いながら。
しばらく歩くと、森の中が明るくなる。顔を上に向ければ、空が明るくなっているのが分かった。朝になったらしい。
そんな事を気にするのはヒヅキ以外には居ないようで、空の様子を気にしているような者は誰も居なかった。各人それぞれの方法で昼夜問わず視界が確保出来ているからなのだろうが、それに気づいたヒヅキは、そのおよそ人らしからぬ反応に僅かに苦笑する。
(少し前までの俺もあんな感じだったのだろうか? 英雄の封印が俺の中から減った事で少しは感情が戻ったような気もするが……正直分からないな)
英雄達を取り出した事による変化について考えてみるヒヅキだが、魔法が使えるようになった事以外はイマイチよく分からなかった。




