偽りの器20
とりあえずヒヅキは、やるべき事を頭の中で整理して纏めていく。
・器を見つける。
・今代の神が住まう別次元への道を見つける。
・今代の神の住まう別次元への道を繋げると同時に器を破壊する方法を見つける。
・魔法を習熟させる。
その辺りだろうか。問題は、器の事をどう女性に説明するかだろう。どうやって知ったのかと聞かれても、夢の中で誰かの声が教えてくれたとしか答えられないので、怪しい事このうえない。
かといって、他にどう説明すればいいというのか。英雄の誰かから聞いたと言ってもずっと同じ場所に居るので、誰かがそんな事を教えてくれても女性が気づかないはずがないだろう。
場所が森の中なので、図書館で……とか村長から話を……とかも不可能だし、森で遺跡を……と言っても、実際にはまだ何も見つけていないので案内は出来ない。何かが書かれた物なども見つけていないし、実際の場所がどんなところかも分からないのでその線も難しい。なので、結局は夢で聞いたとしか答えられない訳で。昔そんな話を……と、思い出したように言っても、既に森深くまで移動しているので、今更言ってももう遅いだろうし。
ヒヅキは悩むが、しかし名案は思い浮かばない。結局はなるようになるかとしか思えなかった。
とりあえず、今代の神の弱体化の方法は見つかったが、それでも油断は出来ないだろう。かさ増しした分を除いても、神を斃している以上、神の分の力は分配されているのだから。
その辺りも考えないといけないなと思いつつ、ヒヅキは気になった事を訊いてみる。
(そういえば、現在は外の様子が分からないのですか?)
もしも声の主が何らかの方法で外の世界を観測しているのであれば、現在ヒヅキが襲われている状況を知らないはずがない。もし知っているのであれば、器へと至る道が近くにあるかもしれないという事を知っていそうなものだからだ。
しかし、先程声の主は器が近くに在る場合の周辺状況を説明した。それもヒヅキに心当たりがないかのような口ぶりであったので、おそらくそうなのだろうとヒヅキは考えていた。
『そうだよ。よく分かったね。現在は英雄達が外に出た影響を抑えているから、外を観測する余裕がなくてね。それももうすぐ終わりそうだけれども、無理はしないようにね。観ていなければ助けるのも難しいから』
(ありがとうございます)
一応礼を言いつつ、ヒヅキは知らないところでも何かしらの影響が出ていたのかと僅かに驚いた。もしかしたら、この声の主が何かしらの対応をしてくれているからこそ、現状の安定した状況なのかもしれない。多少の不調もあるけれど、ヒヅキの身体はそれでも問題ない程度なのだから。
まぁ、観られて不味いという事も無いので別に構わないのだが、現在の状況だといちいち説明をしなければならない分、むしろ観られていない方が手間であった。
ヒヅキは念の為に声の主にも現在の周辺状況を話しておくかと思い、現在の状況を掻い摘んで説明していく。それを聞き終えた声の主は、『なるほど』 と声を漏らす。
『という事は、近くに器への道が在るかもしれないという訳か……おや? どうやら時間のようだね』
声の主がそう言ったところで、ヒヅキの身体は浮遊するような感覚に襲われる。
それも随分と久しぶりだなとヒヅキが思ったところで、ヒヅキの意識は浮上していった。
◆
ヒヅキが目を覚ますと、暗い森の中であった。まだ夜は明けていないらしい。
周辺に英雄達の存在を感知したヒヅキは、どれぐらい自分は寝ていたのだろうかと思いながら、木に預けていた身体をゆっくりと離して伸びをする。
(今回は結構話が出来た気がする)
伸びをしながら、ヒヅキは先程まで声の主としていた話を思い出す。
もう少し時間があれば、もしかしたら声の主から器への道を見つける方法を聞けたかもしれないが、それでもその前に必要そうな事は話せたと思うので、十分な成果ではあっただろう。あの場所へは寝れば行けるという訳でもないので、話せる時には話しておかなければならなかった。
そうして夢の中での話を一通り振り返ったところで、ヒヅキはそれをどう女性に伝えようかと内心で首を捻って考える。




