偽りの器19
『そう、器を破壊する時の注意』
(それはどんな注意でしょうか?)
説明部分についてあまり聞いていなかったヒヅキは、それを誤魔化すかのように先を促す。
『先程も説明したように、偽りの器を破壊すると器が本来の大きさへと縮小するので、偽装により増えていた余剰分の力が消失する。その際の消失する優先順位としては、当然ながら増えた分の力という訳だ』
(そうなのですね)
減った分を手当たり次第ではなく、ちゃんと増えた部分を優先的に消失させると聞いて、ヒヅキは安堵すると共に、騙されたりする割には世界の仕組みとやらは結構しっかりとしているのだなと思う。
『ああ。さて、そのうえでまずは訊いておかなければならない事がある。知っていれば教えてほしい』
(何でしょうか?)
『その今代の神が現在何処に居るか君は知っているかい?』
(居場所ですか? えっと……)
ヒヅキは記憶を探るようにして思案してみるが、今代の神の居場所は別次元の世界という事以外ヒヅキは知らない。女性ならもう少し詳しく知っているのかもしれないが、それでも現在はそこへと至る道を探している途中なので、知っていてもある程度範囲が絞れている程度だろう。
そこまで考えたところで、何も知らないに等しいなとヒヅキは思った。それでも、別次元に居るという事だけは分っているので、それだけは伝えておく事にする。
(今は別次元に居るとは聞いていますね)
『ふむ、なるほど。つまりは逃げたのか』
(逃げた、ですか?)
ヒヅキは女性から世界の許容量を超えたからこの世界に居られなくなったと聞いていたのだが、声の主の見解としてはどうやら違うらしい。気になったので、ヒヅキは直ぐに問い掛けてみた。
『そう。それで先程の注意事項だが、今代の神が力を奪ったあげく別世界に逃亡している以上、仮に偽りの器を破壊した場合、その時は今代の神の力ではなく、この世界から力を徴収する事になるだろうな』
(そうなのですか?)
『ああ。流石に別世界までは手出し出来ないという事だろう。それでいながら、今代の神が奪った力をちゃんと勘定には含めているので、手出しできないのであれば、その分を他から徴収するという事だね』
(つまり、偽りの器を破壊するのであれば、今代の神をこちらの世界まで連れてきてからがいいという事ですか?)
『そうなるね』
(なるほど。うーん……中々難しそうですね)
『まぁ、向こうも力を奪われない為に逃げたのだろうからね』
声の主の言葉に、ヒヅキはどうにか出来るのだろうかと思案してみるも、そもそも勝てるかどうかも分からないような相手を連れてくるというのが難しい。
(それは本体でなければならないのですか?)
『いや、身体の一部でも、奪った力の分がそこに在るのであれば問題はないよ。無ければ足りない分を世界から徴収するだけだろうし』
(……なるほど)
ヒヅキは思案しながら頷く。今代の神の弱体化は急務ではあるが、それが中々困難な方法である。身体の一部でもいいといっても、神を斃せるほどの力を奪っている以上、あの神殿で出会ったような神の一部では全く足りていないだろう。
かといって、本体を引きずり出すというのも難しい。それに、仮に今代の神から偽りの器から得た力を奪えたとしても、神を斃している以上、その分の力も得ているだろう。なので、どっちみち強力な相手なのは変わりがない。
そうしてヒヅキが思案していると、声の主も思案していたのか『あ』 という声と共に、思い出したように声の主は語る。
『もしもこちらの世界に連れてくるのが難しいのであれば、道を繋げるという手段もあるよ』
(道を繋げるですか)
『そうそう。別世界とこの世界を直接繋ぐのさ。そして、その状態で偽りの器を破壊すると、その道を辿って今代の神から強引に力を徴収することが出来るよ。道があれば干渉も出来るからね』
(そうなのですか)
であれば可能だろうかと思うも、道を繋げた後にどうやって偽りの器を破壊すればいいというのか。そこもまた問題であった。




